結果と考察


1.分析対象者について
調査対象者は13名であったが、その内、欠損値を含むデータが4名分あったため、それらのデータを分析の対象から除外した。
 その結果、9名(男性2名、女性7名)分のデータを分析に用いた。
 
2.各尺度の因子構造と信頼性分析
9名分のデータでは数が少ないため因子分析を行うことができなかった。そこで、データ数を増やすために測定したすべての回のデータを用いて以下の因子分析を行った。
 
(1)フローに関する尺度
フローに関する尺度全3項目について、主因子法による因子分析を行い、1因子解を採用した。すべての項目に高い負荷量がみられ、全3項目を用いて下位尺度を構成した。
 内的整合性を確認するために、Cronbachのα係数を算出したところ、「フロー」はα=.888を示し、分析可能な内的整合性をもつものと考えられる。
 
(2)反応性に関する尺度
反応性に関する尺度全4項目について、主因子法による因子分析を行い、1因子解を採用した。すべての項目に高い負荷量がみられ、全4項目を用いて下位尺度を構成した。
 内的整合性を確認するために、Cronbachのα係数を算出したところ、「反応性」はα=.869を示し、分析可能な内的整合性をもつものと考えられる。
 
(3)動機づけに関する尺度
動機づけに関する尺度全21項目について、主因子法による因子分析(プロマックス回転)を行った。
 第1因子は「グループの他のメンバーと仲良くなろうとしていると思う」、「みんなに好かれるように、がんばっていると思う」、「グループ全体で仲良くなるよう努力していると思う」、「グループの他のメンバーと仲良くなろうとしていると思う」、「他の人に嫌われないようにしていると思う」、「グループの他の人に好かれるように一生懸命やっていると思う」というように、他者と仲良くなりたいという動機に関する項目に高い負荷量がみられたことから、“親和動機”と命名した。
 第2因子は「今、学んでいることには興味がわく」、「今、学んでいることは面白い」、「今、学んでいることを考えると楽しい気分になる」、「今、学んでいることを考えると、わくわくする」、「今、学んでいることは、実際の生活に生かせると思う」というように、課題が面白いという価値づけに関する項目に高い負荷量がみられたことから、“興味価値”と命名した。
 第3因子は「自分の意志で計画通りに学習することが出来ると思う」、「こういう風にしようと思ったら、その通りに学習できると思う」、「最後まで学習をやり遂げることができると思う」、「学習しようと思っても手がつけられない(逆転項目)」というように、上手く行なえるかどうかという自分の遂行能力に対する予測に関する項目に高い負荷量がみられたことから、“効力予期”と命名した。
 第4因子は「今、学んでいることは、将来仕事の役に立つと思う」、「今、学んでいることは将来のためになる」、「この先さらに高度なことを学んでいくために、今、学んでいることは重要だ」というように、課題が自分のためになるという価値づけに関する項目に高い負荷量がみられたことから、“利用価値”と命名した。
 第5因子は「グループ全体のためにがんばっていると思う」、「グループの他の人の役に立てるようにがんばっていると思う」というように、みんなの役に立てるように頑張るという動機に関する項目に高い負荷量がみられたことから、“接近的他者志向動機”と命名した。以上の因子分析結果をもとに下位尺度を構成した。
 なお、「16.グループに励ましてくれる人がいると感じている」の因子負荷量はどの因子においても低かったことから、この1項目は下位尺度構成から除外した。
各下位尺度の内的整合性を確認するために、Cronbachのα係数を算出したところ、「親和動機」はα=.919、「興味価値」はα=.902、「効力予期」はα=.802、「利用価値」はα=.915、「接近的他者志向動機」はα=.739を示し、分析可能な内的整合性をもつものと考えられる。
 
3.各変数間の関連性
各回における変数の関連を調べるために、各回における変数間の相関係数を算出した。
 
(1)フローと反応性
23日〜30日では、フローと反応性(r=.630, p<.05)の間に有意な正の相関が見られた。相関係数は高い値を示しており関連の強さがうかがえる。30日〜13日では、相関係数が低くほぼ関連がないと言えるだろう。13日〜20日では、フローと反応性(r=.484, p<.10)の間に有意傾向の正の相関が見られた。以上の結果から、23日〜30日においてフローと反応性の関連が最も強く、13日〜20日においてもやや関連があることが分かった。
 
 
(2)動機づけ(23日)
「親和動機」と「接近的他者志向動機」(r=.772, p<.01)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数は高い値を示しており強い関連があることが分かる。「興味価値」と「利用価値」(r=.553, p<.05)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数はやや高い値を示しており、やや強い関連があることが分かる。「親和動機」と「効力予期」(r=-.539, p<.10)の間に、有意傾向の負の相関が見られ、「効力予期」と「利用価値」(r=.512, p<.10)の間には、有意傾向の正の相関が見られた。
 
(3)動機づけ(30日)
「興味価値」と「利用価値」(r=.882, p<.001)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数は高い値を示しており強い関連があることが分かる。「親和動機」と「接近的他者志向動機」(r=.690, p<.05)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数はやや高い値を示しており、やや強い関連があることが分かる。「興味価値」と「効力予期」(r=.648, p<.05)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数はやや高い値を示しており、やや強い関連があることが分かる。「効力予期」と「利用価値」(r=.702, p<.05)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数は高い値を示しており、強い関連があることが分かる。
 
(4)動機づけ(13日)
「興味価値」と「効力予期」(r=.703, p<.01)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数は高い値を示しており強い関連があることが分かる。「効力予期」と「接近的他者志向動機」(r=.682, p<.01)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数は高い値を示しており強い関連があることが分かる。「親和動機」と「効力予期」(r=.640, p<.05)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数はやや高い値を示しており、やや強い関連があることが分かる。「親和動機」と「接近的他者志向動機」(r=.546, p<.05)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数はやや高い値を示しており、やや強い関連があることが分かる。「興味価値」と「利用価値」(r=.670, p<.05)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数は高い値を示しており、強い関連があることが分かる。
 
(5)動機づけ(20日)
「興味価値」と「利用価値」(r=.738, p<.01)の間に、有意な正の相関が見られた。相関係数は高い値を示しており強い関連があることが分かる。その他に有意な相関は見られなかった。「効力予期」と「利用価値」(r=-.421)の間に、負の相関が見られた。相関係数はマイナス方向に大きな値を示しており強い負の関連があることが分かる。「親和動機」と「接近的他者志向動機」(r=.387)の間に、正の相関が見られた。相関係数はやや高く、やや強い関連があることが分かる。
 
 
4.被験者全体における項目の変化
 フロー、反応性、動機づけの得点が授業の回数を重ねていくにつれてどのように変化していくのかを調べるため、1要因分散分析を行った。
 
(1)被験者全体におけるフローの変化
フローの得点は、第1回〜第2回から第2回〜第3回にかけて下降している。その後、第3回〜第4回では上昇していく。有意差は認められなかった。第2回〜第3回にかけて下降した原因として考えられるのが、授業と授業の間の空きが2週間あったことである。通常は1週間の空きのため、次回までに調べなければいけないことに対して意識を持ち、集中を持続できるが、2週間空いたことでその集中が途切れてしまったのではないかと考えられる。このことから学習者の集中にはPBLを行うペースが影響していることが示唆される。第3回〜第4回で上昇した原因として考えられることは、第4回に発表を行うことになっていたのでそれまでに考えをまとめなくてはいけないという気持ちから学習に集中していたと考えられる。
 
(2)被験者全体における反応性の変化
反応性の得点は、授業の回数を重ねるごとに高くなっている。第1回〜第2回と第3回〜第4回との間には.05水準で有意差があった。また、第1回〜第2回と第2回〜第3回の間にも有意傾向があった。第1回〜第2回では各被験者が各自で調べたことをアップするのみで、互いに質問を投げかけたりすることはなかった。このグラフが示すとおり、Moodle上でのやりとりが多く見られたのは第3回〜第4回だった。第4回に発表があり、その準備をする際にMoodleがその機能を発揮し、大いに役立っていた。
 
(3)被験者全体における動機づけの変化
1.親和動機
親和動機の得点は、第1回から第3回にかけて上昇していく。第4回の得点は第1回よりも低くなっている。有意差は認められなかった。親和動機は他者と仲良くなりたいという動機のことであり、第4回の得点が第1回の得点よりも低くなった原因として、第4回時にはすでにグループが打ち解けておりそれ以上仲を深める必要はなかったからだと考えられる。
 
2.興味価値
興味価値の得点は、第1回から第3回にかけて下降していく。第4回で得点は上昇するが、第2回の得点よりも低くなっている。有意差は認められなかった。第4回で得点が上昇した原因としては、発表を行ったことでこれまで学んできたことが頭の中で整理され、理解が深まり、面白さを感じたからだと考えられる。
 
3.効力予期
効力予期の得点は、第1回から第3回にかけて下降していく。第4回で得点は上昇するが、第2回の得点よりも低くなっている。有意差は認められなかった。第1回から第3回にかけて下降した原因として考えられることは、グループでなかなか意見がまとまらないことから焦りを感じ、また自分たちが調べていることが本当に解決に向かっているのかと不安を感じていたからだろうと考えられる。このため、発表を終えた第4回の得点は上昇している。今回のPBLにおいて、最後に発表を行ったことは考えをまとめるだけではなく、受講者に達成感を感じさせる意味でも有意義だったと考えられる。
 
4.利用価値
利用価値の得点は、第1回から第2回にかけて下降していく。第3回、第4回と得点は上昇していき、第4回の得点と第1回の得点は等しくなっている。有意差は認められなかった。第1回から第2回にかけて下降していく原因は、効力予期と同じように自分たちが調べていることが本当に解決に向かっているのかと不安を感じ、自分のためになっているという実感を持てなかったからだと考えられる。第3回、第4回と得点が上昇していったのは、課題解決への見通しがついたことにより、学習している意味を各自が見出せたからだと考えられる。
 
5.接近的他者思考動機
接近的他者志向動機の得点は、第1回から第3回にかけて下降していく。第4回で得点はやや上昇するが、第2回の得点よりも低くなっている。有意差は認められなかった。今回の結果では、利用価値の得点が突出して高かった。このことから、被験者はこの学習を自分のためにやっているという意識が非常に強かったといえる。そのため、みんなの役に立てるように頑張るというような接近的他者志向動機の得点は低かったと考えられる。
 
 
5.動機づけとフロー・反応性との関連
授業の終了時に測定した「動機づけ」が、次回の授業開始時における「フロー」にどの程度影響を与えているのかを明らかにするために、「親和動機」・「興味価値」・「効力予期」・「利用価値」・「接近的他者志向動機」を独立変数、「フロー」を従属変数とする重回帰分析を行った。
 また、授業の終了時に測定した「動機づけ」が、次回の授業開始時における「反応性」にどの程度影響を与えているのかを明らかにするために、「親和動機」・「興味価値」・「効力予期」・「利用価値」・「接近的他者志向動機」を独立変数、「反応性」を従属変数とする重回帰分析を行った。
 分析の結果、「フロー」、「反応性」ともに「動機づけ」との間に有意な関連は見られなかったので、以下では標準化係数の値に注目し分析を試みる。
 
(1)23日の動機づけと23日〜30日のフローとの関連
分析の結果、「親和動機」、「興味価値」ともに正の関連がみられた。関連の強さは「興味価値」の方が「親和動機」よりも強かった。つまり、「フロー」に対して「興味価値」がやや強く、「親和動機」が弱く影響していると考えられる。また、「利用価値」、「接近的他者志向動機」ともに正の関連が見られたが、標準化係数の値は低く、これらの関連はそれほど強くはないと考えられる。「効力予期」はほぼ無関連ということが分かる。
 
(2)30日の動機づけと30日〜13日のフローとの関連
分析の結果、「親和動機」、「興味価値」、「効力予期」、「利用価値」、「接近的他者志向動機」と正の関連がみられた。特に「接近的他者志向動機」との標準化係数の値は高く、「フロー」に対して強く影響していると考えられる。「接近的他者志向動機」の次に標準化係数の値が高いのは「興味価値」と「効力予期」であり、これらが「フロー」に対して弱く影響していることが分かる。
 
(3)13日の動機づけと13日〜20日のフローとの関連
分析の結果、「興味価値」、「効力予期」、「利用価値」、「接近的他者志向動機」と正の関連がみられた。特に「利用価値」と「効力予期」との標準化係数の値は高く、「フロー」に対して強く影響していると考えられる。「利用価値」と「効力予期」の次に標準化係数の値が高いのは「興味価値」と「接近的他者志向動機」であり、これらが「フロー」に対して弱く影響していることが分かる。「親和動機」とのみ、負の関連がみられた。
 
(4)23日の動機づけと23日〜30日の反応性との関連
分析の結果、「親和動機」、「興味価値」、「利用価値」と正の関連がみられた。特に「親和動機」との標準化係数の値は高く、「反応性」に対して強く影響していると考えられる。「親和動機」の次に標準化係数の値が高いのは「利用価値」であり、「反応性」に対して弱く影響していることが分かる。「効力予期」、「接近的他者志向動機」とは、負の関連がみられた。特に「接近的他者志向動機」との標準化係数の値はマイナス方向に大きく、「反応性」に対しての負の影響の強さがうかがえる。
 
(5)30日の動機づけと30日〜13日の反応性との関連
分析の結果、「親和動機」、「興味価値」、「接近的他者志向動機」と正の関連がみられた。特に「興味価値」と「接近的他者志向動機」との標準化係数の値は高く、「反応性」に対して強く影響していると考えられる。「効力予期」、「利用価値」とは、負の関連がみられた。特に「効力予期」との標準化係数の値はマイナス方向に大きく、「反応性」に対しての負の影響の強さがうかがえる。
 
(6)13日の動機づけと13日〜20日の反応性との関連
分析の結果、「親和動機」、「興味価値」、「利用価値」、「接近的他者志向動機」と正の関連がみられた。特に「接近的他者志向動機」との標準化係数の値は高く、「反応性」に対して強く影響していると考えられる。「接近的他者志向動機」の次に標準化係数の値が高いのは「利用価値」であり、これらが「反応性」に対して弱く影響していることが分かる。「効力予期」とは、負の関連がみられた。標準化係数の値はマイナス方向に大きく、「反応性」に対しての負の影響の強さがうかがえる。
 
(7)重回帰分析のまとめ
 「フロー」、「反応性」に対して強い影響を与える動機づけの下位尺度は即定時毎に変化していた。このことは被験者の動機づけが日毎に変化していたことを表していると考えられる。
「親和動機」は初回において「フロー」との間に強い正の関連を示していたが、2回目では標準化係数の値が低くなり、3回目では負の関連を示していた。「親和動機」は初回において「反応性」との間に強い正の関連を示していたが、2回目では標準化係数の値が低くなった。3回目は2回目に比べて強い関連を示していた。以上から「親和動機」は、PBLの開始時における被験者の課題に対する集中や、グループの他者との関わりに強い影響を与えていると考えられる。
 「興味価値」は初回において「フロー」との間に強い正の関連を示していたが、2回目、3回目と時間が経つに連れて関連が弱くなっていた。「興味価値」は初回において「反応性」との間に弱い正の関連を示していた。2回目には関連がはるかに強くなるが、3回目は初回と同等の関連を示した。以上から「興味価値」は、PBLの開始時には被験者の課題に対する集中に影響を与え、PBLの中盤ではグループの他者との関わりに強い影響を与えていると考えられる。
 「効力予期」は初回において「フロー」との間に負の関連を示していた。しかし2回目では正の関連を示し、3回目では正の関連がさらに強いものになっていた。「効力予期」は初回において「反応性」との間に弱い負の関連を示していた。2回目、3回目と時間が経つにつれより負の関連は強いものになっていった。以上から「効力予期」はPBLの開始時における被験者の課題に対する集中には負の影響を与えるが、PBLが進むに連れて被験者の課題に対する集中に強い正の影響を与えている。また、グループの他者との関わりに対しては時間が経つにつれて負の影響が強くなっていくことを示していると考えられる。
 「利用価値」は初回において「フロー」との間に正の関連を示していたが、2回目にはその関連が弱いものになっていた。しかし3回目では初回よりもはるかに強い正の関連を示していた。「利用価値」は初回において「反応性」との間に正の関連を示していたが、2回目には負の関連を示した。しかし3回目には初回よりも強い正の関連を示していた。以上から「利用価値」はPBLの開始時において被験者の課題に対する集中や、グループの他者との関わりに影響を与え、PBLの終盤ではその影響がさらに強くなることが分かった。
 「接近的他者志向動機」は初回において「フロー」との間に正の関連を示しており、2回目ではその関連がさらに強くなっている。しかし3回目では2回目に比べて関連の強さが弱くなっていた。「接近的他者志向動機」は初回において「反応性」との間に強い負の関連を示していた。しかし2回目、3回目では強い正の関連を示していた。以上から、「接近的他者志向動機」はPBLの開始時や、特に中盤における被験者の課題に対する集中に強い影響を与えると考えられる。また、PBLの中盤以降ではグループの他者との関わりに強い影響を与えていると考えられる。
 
6.インタビューの結果
 9名の被験者にインタビューを行った。まず「今期に受講している授業の総数」、「この授業のように準備が必要な授業を受講しているかどうか」、「教員免許を取得予定かどうか(取得予定の場合、教員の志望度も尋ねた)」、「PBLは初めてかどうか」、「どのような方法で調べていたか」、「どのくらいの頻度でMoodleをチェックしていたか」という6つの質問に対する回答から今回の授業の参加者の様子を述べる。
 
受講生の中には2年生が多いため15コマ以上授業を履修している被験者が目立った。また、この授業の他にも今期にPBLを行う授業を受講している被験者が3人いた。
 教員免許の取得に関しては、教員免許を取得予定の被験者は9名中7名と多かった。免許を取るだけでなく、実際に教員として働きたいと考えている被験者も4名いた。来春から教員になる被験者や教育機関で働く被験者もいた。
 PBLの経験に関しては、9名中6名がこれまでにも経験があると答えた。
 調べる手段に関しては文献から調べていた被験者が多かった。まずインターネットでキーワードを入力し検索をかけ、そこから文献を見つけて実際に読んでみるといった方法を用いている被験者もいた。
 Moodleをチェックする頻度に関しては、1日に数回チェックしている被験者は少なく、2日に1回くらいのペースでチェックしていた被験者が多かった。PBLの終盤では発表の準備があり、チェックする回数が増えていった被験者が多かった。9名ともに自宅でもインターネットを使える環境が整っていた。
 
以下の質問の結果については、以後の「各被験者の変化」で述べることとする。
・各項目の変化に対して思い当たることがあるかどうか(グラフを見ながら)
・課題に対してどのように感じていたか
・グループに対してどのように感じていたか
・その他に印象に残っていること
 
 
7.Moodleへの書き込み回数と返信を受けた回数
1週目の授業終了後から、4週目の授業開始前までの間に各被験者がMoodleに書き込みをした回数、返信を受けた回数をカウントした。この分析に関しては、全被験者13名のデータを用いている。
AグループではA−2とA−5の書き込みが多い。A−5に関しては、全被験者の中で一番書き込み回数が多かった。
BグループではB−1の書き込み回数が目立って多い。B−1の書き込みは、グループの他者に対して質問を投げかけるような内容のものが多かったため、返信を最も多く受けたと考えられる。
 Aグループ、Bグループで共通していることは、書き込み回数が多い被験者はグループの他者から返信を受けた回数も多いということである。グループの他者から返信を受けることは、書き込みを行うことに対して強い影響を与えていると考えられる。
 AグループとBグループで異なる点は、返信を受けるまでの時間である。Aグループの方が比較的早い返信が多く、Bグループでは24時間以降での返信も少なくない。書き込み回数の合計回数がAグループの方が多いことから、より早い返信を受けることも書き込みを行うことに対して強い影響を与えていると考えられる。
 書き込みを行うということが、授業に対する関心を完全に反映しているとは言い難いが、インタビューの結果から被験者のネット環境にはそれほど差がないことが分かっているため、やはり書き込みの回数も授業に対する関心を表していると考えられる。
 
 
8.ディスカッション中の発言回数
1週目、2週目、3週目におけるディスカッション中の各被験者の発言回数をカウントした。この分析に関しては、全被験者13名のデータを用いている。
 Aグループの発言回数は、Bグループの発言回数に比べて多い結果になっている。これはAグループの発言には比較的短文のものが多いことと、Bグループの発言には長文のものが多いことが関連している。そのため、単に回数だけでグループ間の比較検討を行うことは難しいと考えられる。
発言回数が多いのは、AグループではA-3とA-5、BグループではB-1とB-4であった。この4名には共通点が見られた。まず、この4名は自身の意見をたくさん述べていたことである。さらに、他者の意見に対してあいづちを打つなどの反応を返していたことである。その他にも、なかなか自分から発言することのないグループの他者に対して、「〜さんはどう思う」などの投げかけを多くしていたことである。
 発言回数が少ないのは、AグループではA-1とA-4、BグループではB-5とB-7であった。この4名にも共通点が見られた。まず、A-1、A-4、B-7はいずれも留学生であることである。A-1とA-4は、実験者が行ったインタビューの際に「日本語で心理学の専門用語が飛び交うディスカッションにおいて、すぐに他者の発言内容を理解し、それに対して母国語ではない日本語で自身の意見を述べることは非常に難しかった」と話していた。また、B-5もインタビューの際に「あまりディスカッションは経験がない上、人前で話をすることは苦手であり、ましてや心理学の専門的な知識に関しては発言ができなかった」と話していた。このため、発言回数が少ないということが授業に対して関心が薄いとは言い切れないだろう。



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