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1.PCI-J(予防的コーピング)とTAC-24(事後的コーピング)の相関
2.各対処スタイル群におけるPCI-Jの使用
3.各条件におけるTAC-24の差異
4.「予防的コーピング」の内容について
5.今後の課題とまとめ
1.PCI-J(予防的コーピング)とTAC-24(事後的コーピング)の相関
PCI-JとTAC-24との相関結果から,「予防的コーピング」が「事後的コーピング」とどのように関連するかを検討する。
(1)全被調査者
<「F1:能動」と「事後的コーピング」>
「F1:能動」は,明確なストレッサーに対する準備と言うよりは,自分自身が目標とするべき方向へ進むための対処努力として解釈できる。この因子と相関が見られたのは「C:放棄・諦め」「C:肯定的解釈」「C:計画立案」「C:責任転嫁」であった。負の相関が見られた「C:放棄・諦め」「C:責任転嫁」は「F1:能動」が予防的コーピングの中でも挑戦の要素が強く含まれることから,理解できる結果である。正の相関が見られた「C:肯定的解釈」「C:計画立案」は,今後は良いこともあると考えたり,過ぎたことの反省をふまえて次にすべきことを考えるなど,次回につなげられる要素を持つ項目であるため,「F1:能動」は未来につなげようとする因子であるといえる。
また,「F1:能動」はTAC-24の3軸のうち接近型コーピングと正の相関を,回避型コーピングと負の相関を示した。これにより,「F1:能動」は「事後的コーピング」においてより接近的なコーピングと結びつき,回避的なコーピングには進まないことが示された。
<「F2:待機」と「事後的コーピング」>
「F2:待機」は将来や不幸な出来事など,遠い未来に対する行動計画の見通しを促す因子であると解釈できる。この因子では8下位因子のいずれでも,また,3軸のいずれにおいても相関がなかった。これは,この因子の持つ,遠い未来に対する行動計画の見通しという視点が影響していると考えられる。すなわち,ある特定のストレッサーに対しておこなうTAC-24と異なり,特定のストレッサーを想定せず,さらに,長期的なスパンを持つ因子であるため,TAC-24には対応できる項目がなかったということである。
<「F3:熟察」と「事後的コーピング」>
「F3:熟察」は潜在的なストレッサーに対する予防のうち,問題に関する思考を巡らす因子である。この因子では「C:計画立案」で正の,「C:責任転嫁」で負の相関が示された。「C:責任転嫁」との間に負の相関が見られるのは,自分自身が正面から取り組んだ問題に対して,他の人に責任を押しつけるなどのコーピングを採用することは不自然であることを考えれば理解できる。また,「C:計画立案」との間で正の相関が示されたことは,問題に関する思考を巡らせる因子であることを考慮に入れれば解釈可能と思われる。すなわち,思考を巡らせたあとに,ストレッサーが活性化して対処に窮した場合,過ぎたことの反省をふまえ,次にどのようにするか考えるという流れは十分納得できる結果といえる。「F3:熟察」は,自分に降りかかった問題に対して,粘り強く向き合うことを促す因子と捉えられる。
さらに,「F3:熟察」はTAC-24の3軸のうちいずれの軸とも相関はなく,事後的コーピングに対してそれほど影響力を持つ因子ではないことが示された。
<「F4:現実」と「事後的コーピング」>
「F4:現実」は負の負荷量を示した因子であるため,低いほど現実的で,現在に焦点をあてる傾向をもつ因子であり,高いほど将来への想像や期待を持つ因子である。この因子では「C:肯定的解釈」「C:計画立案」と正の相関が示された。この正の相関については「F1:能動」と同じような結果が示されたが,「F1:能動」が未来につなげる因子であるならば,「F4:現実」は自分自身の目標として未来に目を向けるのではなく,尺度得点が高いほど,問題への期待として未来に目を向ける,未来への期待を諦めない因子であると考えられる。
また,「F4:現実」はTAC-24の3軸のうち接近型・認知系コーピングと正の相関を示したことから,「F4:現実」は「事後的コーピング」においてより接近的なコーピングと結びつき,認知系のコーピングと関連することが示された。
以上の結果より,PCI-Jによって測定された「予防的コーピング」は,「事後的コーピング」のうち接近的なコーピングに結びつき,問題から離れたり,諦めたりといったコーピングへは導かないことが明らかになった。
(2)各対処スタイル群
SO者ではPCI-Jの下位因子である「F4:現実」とTAC-24の下位尺度である「C:回避的思考」との間に正の相関が認められた。TAC-24の3軸との関連は見られず,SO者では予防的コーピングと事後コーピングのつながりが乏しいだけでなく,予防的コーピングが,問題から遠ざける方向に向かわせるということになる。
DP者において,PCI-Jの下位因子と相関が確認されたのは「C:放棄・諦め」「C:計画立案」「C:責任転嫁」の3つであった。そのうち,正の相関を示したのは「C:計画立案」であった。PCI-Jと3軸との関係では回避型・行動系コーピングで負の相関を示しており,予防的コーピングが問題からの回避や問題に対して行動しないことは導かないことが示された。DP者では,予防的コーピングが回避や問題に対する行動の不生起につながらないことが認められた一方,問題に積極的になるという方向を示したのは「C:計画立案」のみであった。つまり,DP者における予防的コーピングは,問題に積極的に関わるというよりも,問題に回避的にならないというはたらきを持つといえる。
DEP者において,PCI-Jの下位因子と相関が確認されたのは「C:情報収集」「C:肯定的解釈」であり,PCI-Jの下位因子と3軸との関連では情動焦点型・接近型コーピングで相関が見られた。
2.各対処スタイル群におけるPCI-Jの使用
対処スタイル群におけるPCI-J使用について検討するために,対処スタイル群(SO者,DP者,DEP者)を独立変数,PCI-Jの下位因子(F1:能動,F2:待機,F3:熟察,F4:現実)を従属変数とする2要因混合分散分析をおこなった。その結果,対処スタイル群とPCI-Jの下位因子の主効果が有意であったため,多重比較をおこなった。結果,いずれの群においてもDP者がSO者,DEP者よりも有意に高く,また,いずれの対処スタイル群においても「F3:熟察」が高いことが示された。これはDP者が予防的コーピングを採用していることを示し,従来のコーピング研究では得られなかったDP者の特徴が認められた。
また,いずれの群においても「F3:熟察」が高いことが示されたことに関して,「F3:熟察」を構成する項目は,先行研究において「Reflective Coping(内省的コーピング)」と呼ばれることから解釈できる。「Reflective Coping(内省的コーピング)」は,潜在的なストレッサーに対する予防と,その潜在的なストレッサーが顕在化するまでに予防的に準備する対処努力と定義されていることから,本研究の“予防的”という側面に特化した因子であり,本研究で測定された予防的コーピングうち,もっとも典型的で採用されやすいものといえる。
次に,対処スタイル群とPCI-Jの関係をより詳細に把握するためにおこなった一元配置分散分析の結果,「F1:能動」ではDEP者よりもSO者,DP者が有意に高かった。この因子は明確なストレッサーを想定するというよりは,自主的な目標を達成する努力と解釈でき,より挑戦的なコーピングといえる。すなわち,SO者,DP者はDEP者にくらべて問題や壁が立ちはだかる可能性にたいして積極的に立ち向かおうとする傾向がうかがえる。これは,より長期的なスパンでの自己成長を志向する傾向ともとれ,DP者はSO者と同様に人格的成長や人生における目的を持つという先行研究結果とも一致するものであった。
「F2:待機」では,SO者よりもDP者が有意に高く,このことはDP者の特徴と関連して解釈できる。すなわち,「F2:待機」は不幸な出来事に備えるや危険な状況を避けるために先を読むなど,低い期待と熟考をもってあらゆる状況に対処するDP者の傾向と一致する因子である。一方,SO者の時期が来るまでリラックスするという特徴とは合わないコーピングであったといえる。
「F3:熟察」では,SO者,DEP者よりもDP者で有意に高かった。「F3:熟察」は予防的,という側面に特化した因子であり,DP者の特徴を活かすことができるコーピングといえる。
「F4:現実」ではDEP者よりもDP者が有意に高かった。「F4:現実」は負の負荷量を示した因子であるため,高いほど「現実」とは逆の「想像」「空想」などの意味になる。しかし,この因子は成功することを想像するなど,良い方向への期待を含んだ想像である。DP者は低い期待をもって課題に臨むことが特徴として明らかにされているが,今回の結果から,「起こり得るすべての状況を想像する」という中には,低い期待だけでなく,成功状況の想定も含まれる可能性が示唆された。
3.各条件におけるTAC-24の差異
条件によるコーピングの採用を検討するため,各対処スタイル群ごとに,条件(L条件・J条件)を独立変数,TAC-24の8下位因子を従属変数とする一元配置分散分析をおこなった。その結果SO者とDEP者において,「C:情報収集」がL条件よりJ条件で有意に低かった。「C:情報収集」は問題焦点型・接近型・行動系コーピングであり,J条件はL条件よりも「C:情報収集」を採用する必要がなかったと解釈できる。L条件とJ条件のの違いは,重要な課題で自分一人が取り組むか他者を含むかといった部分である。そのため重要な課題で他者を含むJ条件において,ストレス活性後に「C:情報収集」を採用することは問題の長期化にもつながると危惧され,積極的な問題解決に注意が向けられなかったと考えられる。
DP者では条件による有意な差は見られず,異なるストレス状況においてコーピングの採用が大きく変動することはなかった。これは,DP者が対処不可能状況において情動焦点型の対処をうまくおこなえないという脆弱性を示唆した先行研究と同様の傾向が示されたといえる。しかし,コーピングを変えるかどうかの要因が,単独で精神的健康に影響を及ぼすものではないことも明らかにされており(三野・金光,2004),この結果だけではDP者の精神的健康についての言及できない。
以上をふまえて仮説を顧みる。ここまでで検討し得る仮説は<予防的コーピング>について示した仮説1「DP者は,「予防的コーピング」をおこないやすく,「予防的コーピング」は「事後的コーピング」のうち問題焦点型により強い影響を示す」と仮説2「「予防的コーピング」はDP者においてより多く観察できる」である。
仮説1について,相関分析,分散分析の結果から,「予防的コーピング」は問題焦点型に強い影響を持つ,という点は棄却されたものの,問題に接近する点では同様に示された。また,「予防的コーピング」はDP者において多く用いられることが認められ,DP者に関するコーピング研究に新たな視点を導入できたといえよう。
4.「予防的コーピング」の内容について
(1)対処スタイル群×条件×カテゴリーの関係@
対処スタイル群(SO者・DP者・DEP者)×条件(L条件・J条件)×カテゴリー(「成否除外」「失敗想定」「成否想定」)の3要因混合分散分析の結果,3要因間に有意な差が認められたため単純主効果の検定をおこなった。
(a)群×カテゴリーにおける条件の効果
条件の効果を確認するため,群×カテゴリーにおける条件の効果について検定をおこなった。その結果,条件による差が見られたのはSO者の「成否除外」「成功想定」,DP者のすべてのカテゴリー,DEP者の「成功想定」であった。
いずれの群においても「成功想定」でL条件が有意に高かった(p<.001)。また,SO者,DP者においては「成否除外」が,L条件よりもJ条件で有意に高く(p<.001),DP者においては「失敗想定」で,J条件よりもL条件で高かった(p<.001)。これらの結果を条件の効果として解釈すると,‘重要な課題で自分一人が取り組む状況’を想定させるL条件は課題の成功・失敗が確定した後について想定する傾向を持ち,このことは,‘重要な課題を他者と共有する状況’を想定させるJ条件で,課題の成功・失敗が確定するまでの事前準備を入念におこなうことが示されたこととは対照的である。すなわち,「重要な課題+自分」というストレス場面と「重要な課題+自分+他者」というストレス場面の違いは,前者がある程度のスパンをもって課題を捉えるのに対し,後者は注意を課題に限定するものであったといえる。
(b)条件×カテゴリーにおける対処スタイル群の効果
対処スタイル群の効果を確認するため,条件×カテゴリーにおける対処スタイル群の効果について検定をおこなった。その結果,群による差が見られたのはL条件の「失敗想定」のみで,J条件では群による差は確認されなかった。
L条件の「失敗想定」ではDP者,DEP者がSO者よりも有意に高かった(p<.001)。これらの結果を群による効果と解釈すると,「起こり得るすべての状況を考慮して可能な限りの対策をする」DP者で課題遂行が失敗するかもしれないと想定することは納得できる結果である。加えて,DP者と同じく悲観性の一側面と考えられるDEP者においても「失敗想定」が高かったことは,失敗する状況を想定することが悲観性の特徴であると解釈できる。
また,どの群においても差が見られなかったJ条件についての結果は,「重要な課題+自分」というストレス場面と「重要な課題+自分+他者」というストレス場面の違いによって引き起こされたものと考えられる。すなわち,「重要な課題+自分+他者」というストレス場面は群による特徴の問題ではなく,どんな対処スタイルでも注意を課題に限定して臨むものと理解できる。よって,対処スタイルによる傾向は,現在までの対処的悲観性の研究で検討・蓄積されているように「重要な課題+自分」という場面で現れることが示唆された。
(c)条件×対処スタイル群におけるカテゴリーの効果@
カテゴリーの効果を確認するため,条件×対処スタイル群におけるカテゴリーの効果について検定をおこなった。その結果,カテゴリーによる差が見られたのは,L条件のSO者とDEP者で,J条件ではいずれの群においても差は見られなかった。
L条件において,SO者,DEP者ともに,「失敗想定」「成功想定」よりも「成否除外」が高かった。これらの結果をカテゴリーによる効果と解釈すると,課題の成功・失敗が確定するまでの事前準備について想定する傾向は,課題の成功・失敗が確定した後について想定するよりもより近い将来に焦点化することを示す。つまり,課題に注意を限定するということである。その意味で,SO者,DEP者は注意の幅が狭く,限定的であるといえる。このことはDEP者の場合,悲観性のもつ,注意を限定し,局所的な認知や処理を高めるといった機能によって解釈可能であろう。SO者については,課題直前まで課題について考えないことで不安を統制することが特徴として明らかになっている。すなわち,課題直前のことについては状況を想定し対処するが,課題の結果以降といったある程度のスパンをもって臨むことは少ないと考えられる。そのため,課題に注意を限定した,より近い将来に焦点化した傾向が見られたと考えられる。
また,L条件において,いずれのカテゴリーでも差が見られなかったDP者においては,“起こり得るすべての状況”の中には最悪の状況だけでなく,成功状況も含まれており,そのためカテゴリーによる差が得られなかったと考えられる。つまり,DP者の特徴である「起こり得るすべての状況を考慮して可能な限りの対策をする」という態度が示されたといえる。
(d)各対処スタイル群における「予防的コーピング」の特徴@
対処スタイル群(SO者・DP者・DEP者)×条件(L条件・J条件)×カテゴリー(「成否除外」「失敗想定」「成否想定」)の3要因混合分散分析の結果から得られた,各対処スタイル群における「予防的コーピング」の特徴を整理する。
SO者においては,カテゴリー間で「成否除外」が多く,「失敗想定」「成功想定」の間に顕著な差は見られないことから,課題に注意を限定し,より近い将来に焦点化するという特徴が示された。予防的コーピングの解釈としては準備から課題までの幅が短く,異なるストレス場面においてもその傾向は同様に認められた。
DP者においては,「失敗想定」でどの群よりも有意に高いが,DP者の中ではカテゴリー間で差が見られなかった。これにより,先行研究で明らかにされてきた「最悪の状況を想像し,それに対処することで不安を統制する」という特徴に加え,起こり得るすべての状況を想定していくプロセスの中には,失敗への危惧と同等に成功への期待も含まれることが認められた。予防的コーピングの解釈としては,準備から課題までの幅がSO者よりも長く,異なるストレス場面において,より限定的な準備になるか,ある程度のスパンをもった準備になるかといった態度に差があることが示された。
DEP者においては,SO者と同様に「成否除外」が高いものの,「失敗想定」についてはDP者と同様にSO者よりも高い傾向をもつことが示された。これはDEP者が,限定的かつ局所的な注意と失敗への危惧を併せ持つ対処スタイルであることを特徴づける。予防的コーピングの解釈として,準備から課題までの幅は短く,想定される内容には課題失敗への懸念が含まれる。
(2)対処スタイル群×条件×カテゴリーの関係A
対処スタイル群(SO者・DP者・DEP者)×条件(L条件・J条件)×カテゴリー(「事前」「事後」)の3要因混合分散分析の結果,3要因間に有意な差が認められたため単純主効果の検定をおこなった。
(e)群×カテゴリーにおける条件の効果
条件の効果を確認するため,群×カテゴリーにおける条件の効果について検定をおこなった。その結果,いずれの群においても条件による差が見られ,すべての傾向として「事前」がJ条件で,「事後」がL条件で有意に高いという結果であった。これらの結果を条件の効果として解釈すると,(1a)で示された結果と同様に「重要な課題+自分」というストレス場面と「重要な課題+自分+他者」というストレス場面の違いは,前者がある程度のスパンをもって課題を捉えるのに対し,後者は注意を課題に限定するものであったといえる。
(f)条件×カテゴリーにおける対処スタイル群の効果
対処スタイル群の効果を確認するため,条件×カテゴリーにおける対処スタイル群の効果について検定をおこなった。その結果,L条件の「事後」で群による差が見られ,J条件では群による差は確認されなかった。
L条件の「事後」ではDP者がSO者よりも有意に高かった(p<.001)。この結果を群による効果と解釈すると,DP者はSO者に比べて長いスパンで課題を理解していることがわかる。また(1b)の結果において「事後」のひとつの側面である「失敗想定」においては,DEP者の効果も見られたが,「事後」というカテゴリーにするとその効果が消えることから,ある程度のスパンをもって課題に臨むことはDP者の特徴であることが認められた。
(g)条件×対処スタイル群におけるカテゴリーの効果@
カテゴリーの効果を確認するため,条件×対処スタイル群におけるカテゴリーの効果について検定をおこなった。その結果,カテゴリーによる差が見られたのは,L条件のDP者と,J条件のすべての群であった。
L条件において,DP者は「事前」よりも「事後」が高かった。DP者にとって現在からほど近い「事前」よりも,不明確で捉えにくい「事後」に対して思考を巡らせ対処することの方が,不安を統制するために必要であり,「事前」においては「事後」に比べて不安を感じずに取り組む傾向が読み取れる。これは,DP者が,あらゆる想像に対して対処準備を整えることと最悪の状況を想像することで不安を統制していくという相互作用の中で,課題への準備が進むにつれて不安が低下し,逆に不安が低下するにつれて課題への準備が進むと考えられていることと合致する。
(h)各対処スタイル群における「予防的コーピング」の特徴A
対処スタイル群×条件×カテゴリーの関係 Aでは,対処スタイル群(SO者・DP者・DEP者)×条件(L条件・J条件)×カテゴリー(「事前」「事後」)の3要因混合分散分析で得られた結果から,対処スタイル群×条件×カテゴリーの関係 @で整理された予防的コーピングの特徴を補整する。
対処スタイル群×条件×カテゴリーの関係 Aでは主にDP者についてより明確になり,ある程度のスパンをもって課題に臨むことがその特徴として認められた。これにより,DP者の予防的コーピングの解釈として,準備から課題までの幅が長く,異なるストレス場面においては,高まった不安が統制されるにつれて焦点化される時間軸が変化することが明らかになった。
5.今後の課題とまとめ
今後の課題
今回,相関分析では認知系コーピングとの関連も多く見られた。考えることと実際おこなうこととはその身体的疲労においても大きな差があることを考慮すると,認知することは適応的でありながら,実際に行動に移す際,または移せなかった場合は逆に不適応的とされることも予想される。その点において,今回のような質問紙でのシナリオ提示では測定が不十分であり,より実際の場面に即した状況で測定される必要があろう。加えて,今回の目的は「予防的コーピング」という視点を導入することであったため,その点に特化した検討になった。そのため,対処的悲観性の研究において検討されてきた適応か否かの指標が不十分であり,今後は「予防的コーピング」もふまえた上でのDP者の適応性についての詳細な検討が必要である。
まとめ
以上より,DP者は,事後的コーピング段階で適応性を高めるのではなく,予防的コーピング段階で適応性を高める,または調整することが示唆された。課題に対しては,ストレス状況の違いによって明確な差が見られたことから,予防的コーピングの活用が課題への適切な処理を促進することが示唆された。これは,SO者の,異なるストレス状況においても一方と同様の傾向で臨めるシンプルさに比べれば,コストの高い対処スタイルである。しかし,DP者は悲観性のもつ観察力や注意力,最悪の事態を考えられる想像力を,自分の不安を明確にし,目的を達成するために活用できていると認められる。予防的コーピング段階を経るなかで,あらゆる事態を想像し,あらゆる対処を模索するからこそ,結果,適応的と解釈できる成果を生むことができるのであろう。
誰にでも不安はある。しかし,自分の特徴を把握し,不安に対するスタイルを選択,構築していくことができれば,たとえ他よりコストが高いスタイルであっても適応性を高めていくことができるのである。身体的にも精神的にも社会的にも調和のとれた状態のためには,すべての人にあてはまるスタイルはなく,それぞれにマッチしたスタイルを認め受け入れることが大切であろう。その意味で,今回の研究は,悲観性の適応性に対して,その性質を活用する意義を指摘することができたといえる。