対処的悲観者における予防的コーピングの特徴とその有用性について

人間発達科学課程56期 川北恵(Megumi KAWAGITA)

目次

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1.分析対象者
2.日本語版対処的悲観性尺度(J-DPQ)とCES-D邦訳版
3.The Proactive Coping Inventory日本語版
4.3次元モデルにもとづく対処方略尺度(TAC-24)
5.PCI-J(予防的コーピング)とTAC-24(事後的コーピング)の相関
6.各対処スタイル群におけるPCI-Jの使用
7.各条件におけるTAC-24の差異
8.自由記述の検討
9.条件による差の検討(自由記述)

1.分析対象者

有効回答者合計201名(男性92名,女性109名)が分析の対象とされた。平均年齢は20.31±3.48歳(mean±SD)であった。

2.日本語版対処的悲観性尺度(J-DPQ)とCES-D邦訳版

 Hosogoshi & Kodama(2005)を参考にDP者(Defensive Pessimist),SO者(Strategic Optimist),DEP者(Depressed Person)を抽出した。まず,これまでに類似した状況で成功してきたという認識がある者(判別項目”過去の同じような状況では,だいたい私はちゃんとうまくやってきた”で”5:ややあてはまる”以上の評定者89名)について,彼らのJ-DPQ得点の平均値を基準に高得点群51名をDP者,低得点群38名をSO者とした。次にCES-D得点が平均値+1SD以上の者をDEP者とした。ここで,DEP者の基準にも適合したDP者7名とSO者5名は,対処的悲観性または方略的楽観性が機能していない者であると考えられることからDEP者に分類した。その結果,DP者44名,SO者33名,DEP者32名が抽出され,以下の分析対象とした。以降の検討では,SO者・DP者・DEP者をまとめて「対処スタイル群」と呼ぶ。

3.The Proactive Coping Inventory日本語版

 The Proactive Coping Inventory日本語版(以下,PCI-Jとする)について,因子分析(重みなし最小二乗法,オブリミン回転)をおこなった。PCI-JはTakeuchi & Greenglass (2004)に基づき因子数を4とした。PCI-JについてはTakeuchi & Greenglass (2004)で抽出された「能動」「内省」「計画」「予防」のうち,「能動」「分割された内省」「予防」が抽出され,「計画」は得られなかった。

 第1因子は7項目で構成されており,「障害をうまく乗り越える方法をいつも探す(何があってもあきらめない)」「一つの目標を達成すると,次にもっと難しい目標を探す」など,他からの働きかけとは関係なく,進んで物事をおこなったり,他に働きかけたりする内容が高い負荷量を示していたことから「F1:能動」因子と命名した。

 第2因子は5項目で構成されており,「不幸な出来事に備えている」「将来起こりうる出来事にどう対応するかを考える」など,準備をととのえて機会の来るのを待つ内容の項目が高い負荷量を示していたことから「F2:待機」因子と命名した。

 第3因子は4項目で示されており,「問題について注意深く考えた後でのみ,行動を起こす」「適切なアプローチを見つけるまで,様々な角度から物事を検証する」など,よく考えたり注意深く見極めたりする内容の項目が高い負荷量を示していたことから「F3:熟察」因子と命名した。

 第4因子は「難しい問題に取り組むはめになる前から,その問題を解決している自分を想像する」など,将来への明るい見通しや実現を望むなどの内容の項目に高い負の負荷量を示していたことから「F4:現実」因子と命名した。これは,得点が低いほど「現実」を用いることを示す。

 次に,各因子の内的整合性を確認した。それぞれの因子ごとにα係数を算出した結果,「F1:能動」因子ではα=.750,「F2:待機」因子ではα=.670,「F3:熟察」因子ではα=.713,「F4:現実」因子ではα=.722の値が得られた。「F2:待機」因子についてはα係数が.670とやや低いが,分析に耐えうる内的整合性を保持している判断し,下位尺度とした。下位尺度得点は,それぞれの因子について.40以上の高い負荷量を示した項目得点を合計したものを,「能動得点」「待機得点」「熟察得点」「現実得点」として,その後の分析をおこなった。「F1:能動」因子の中の「不幸な目に散々あっても,たいてい自分の欲しい物を手に入れる」という項目については,因子負荷量が.396であり,.40を下回っているが,全体としてきれいな因子構造となっているため今回は分析に含めた。これらの得点は,高いほど予防的コーピングをおこなうことが強く表れていることを意味する。

4.3次元モデルにもとづく対処方略尺度(TAC-24)

 TAC-24で測定される8下位尺度について内的整合性(Cronbach's α)を求めた。それぞれ情報収集=.765,放棄諦め=.732,肯定的解釈=.748,計画立案=.688,回避的思考=.681,気晴らし=.692,カタルシス=.861,責任転嫁=.784であった。神村ら(1995)によれば,各下位尺度のα係数は.65(気晴らし)〜.84(カタルシス)の範囲内にあり,項目数を考慮すれば十分に内的整合性は高いと判断できる。

5.PCI-J(予防的コーピング)とTAC-24(事後的コーピング)の相関

 PCI-Jが問題焦点型対処と関連があるかを確認するために,全被調査者201名について,PCI-JとTAC-24間の相関を算出した。
 PCI-Jの下位因子である「F1:能動」とTAC-24の下位尺度である「C:放棄・諦め」「C:責任転嫁」の間に負の相関,「C:肯定的解釈」「C:計画立案」の間に正の相関が見られた。相関係数はそれぞれr=−.405(p<.001),r=−.262(p<.001),r=.310(p<.001),r=.279(p.<.001)であった。
「F3:熟察」と「C:計画立案」との間に正の相関,「C:責任転嫁」との間に負の相関が見られた。相関係数はそれぞれr=.339(p<.001),r=−.200(p<.01)であった。
「F4:現実」は,「C:肯定的解釈」「C:計画立案」と間に正の相関が見られた。相関係数はそれぞれr=.232(p<.01),r=.230(p<.01)であった。
 また,PCI-Jの下位因子とTAC-24の3軸との相関を見ると,「F1:能動」は接近型コーピングと正の相関(r=.276,p<.001),回避型コーピングと負の相関(r=−.281,p<.001)が見られた。「F4:現実」は接近型コーピング,認知系コーピングと正の相関が見られた(それぞれ,r=.246,p<.001;r=.238,p<.001)。

 次に,それぞれの対処スタイル群におけるPCI-J×TAC-24の相関を算出した。

 SO者では「F4:現実」と「C:回避的思考」との間に正の相関(r=.409,p<.05)が確認された。
 DP者では「F1:能動」と「C:放棄・諦め」「C:気晴らし」「C:責任転嫁」との間に負の相関が見られた。それぞれr=−.390(p<.01),r=−.314(p<.05),r=−.309(p<.05)であった。また,「C:計画立案」との間に正の相関が見られた(r=.460,p<.001)。「F2:待機」と「C:計画立案」との間に正の相関,「F3:熟察」「C:責任転嫁」との間に負の相関が見られた。それぞれr=.325(p<.05),r=−.404(p<.001)であった。
 DEP者においては,「F1:能動」と「C:放棄・諦め」との間に負,「C:情報収集」と「C:肯定的解釈」との間に正の相関が見られた。相関係数はそれぞれr=−.413(p<.05),r=.486(p<.001),r=.349(p<.05)であった。また,「F4:現実」は「C:情報収集」「C:気晴らし」「C:肯定的解釈」との間に正の相関が見られた(順に,r=.379,p<.05;r=.430,p<.05;r=.474,p<.001)。
 また,PCI-Jの下位因子とTAC-24の3軸との相関を見ると,SO者では「F4:現実」と情動焦点型コーピングでr=.377,p<.05の相関が見られた。
 DEP者では「F1:能動」と接近型コーピング,「F3:熟察」と回避型コーピング,行動系コーピングそれぞれで負の相関が見られた(それぞれr=−.460,p<.01;r=−.307,p<.01;r=−.306,p<.01)。

6.各対処スタイル群におけるPCI-Jの使用

 対処スタイル群におけるPCI-J使用について検討するために,対処スタイル群(SO者,DP者,DEP者:対応なし)を独立変数,PCI-Jの下位因子(F1:能動,F2:待機,F3:熟察,F4:現実:対応あり)を従属変数とした,2要因混合デザインによる分散分析をおこなった。
 その結果,有意な交互作用は見られず,対処スタイル群とPCI-J下位因子の主効果が有意であった(それぞれF(3,106)=16.47,p<.001;F(2,106)=10.34,p<.001)。
 Bonferroniによる多重比較の結果,いずれの下位因子においてもDP者が有意に高いことが示された(DP者−SO者間,p<.01;DP者−DEP者間,p<.001)。また,いずれの対処スタイル群においても「F3:熟察」が高いことが示された(p<.001)。

 対処スタイル群とPCI-Jの関係をより詳細に把握するため,対処スタイル群を独立変数,PCI-Jの下位尺度得点を従属変数として一元配置分散分析をおこなった。
「F1:能動」因子ではSO者とDEP者,DP者とDEP者の間で有意(p<.05)であった。「F2:待機」因子ではSO者とDP者の間で有意(p<.05)であった。「F3:熟察」因子ではSO者とDP者,DP者とDEP者の間で有意(p<.05)であった。「F4:現実」因子ではDP者とDEP者の間で有意(p<.05)であった。

7.各条件におけるTAC-24の差異

 条件によるコーピングを検討するため,条件(L条件群,J条件群)を独立変数,TAC-24の8下位因子を従属変数とする一元配置分散分析をSO者・DP者・DEP者それぞれについておこなった。その結果,SO者については「C:情報収集」において,J条件で有意に低かった(F(1,31)=14.06)以外は,どの下位因子でも有意な差は見られなかった。

 DP者については,「C:情報収集」「C:責任転嫁」において等分散性の仮説が棄却されたため,Kruskal-Wallisの検定をおこなったが,いずれも条件間で有意な違いは認められなかった(それぞれ,χ2(1)=1.20,n.s.;χ2(1)=.06,n.s.)。「C:情報収集」「C:責任転嫁」以外の項目は,等分散性の仮説が棄却されなかったが,分散分析の結果は有意ではなかった。

 DEP者については,「C:情報収集」において等分散性の仮説が棄却されたため,Kruskal-Wallisの検定をおこなった。その結果,J条件で有意に低かった(χ2(1)=5.40,p<.05)。

8.自由記述の検討

 文章完成課題において収集された「予防的コーピング」の内容について分類をおこなった。まず,「成否想定(事前・事後)」カテゴリーについてL条件,J条件ごとに分類をおこなった。

9.条件による差の検討(自由記述)

(1)想定内容についての結果

対処スタイル群と条件によって,想定内容に差が生じるかを検討した。


 対処スタイル群(SO者・DP者・DEP者)×条件(L条件・J条件)×カテゴリー(「成否除外」「失敗想定」「成否想定」)の3要因混合分散分析を実施した。その結果,カテゴリーの主効果が得られたが(F(2,206)=109.57,p<.001),この主効果は,対処スタイル群×条件×カテゴリーの3要因間の交互作用が有意であったため(F(4,206)=2.82,p<.05)限定される。そこで引き続き,得られた交互作用について単純主効果の検定をおこなった。

 まず,群×カテゴリーにおける条件の効果について1要因分散分析をおこなった結果,SO者においては「成否除外」「成功想定」で条件間に有意な差が見られ(それぞれ,F(1,103)=11.93,p<.001;F(1,103)=16.48,p<.001),「成否除外」ではJ条件が,「成功想定」ではL条件が,それぞれ多かった。
 DP者ではすべてのカテゴリーにおいて条件間の効果が見られ(順に,F(1,103)=22.87,p<.001;F(1,103)=30.78,p<.001;F(1,103)=34.50,p<.001),「成否除外」ではJ条件で,「失敗想定」「成功想定」ではL条件で有意に多かった。
 DEP者では「成功想定」で条件間に有意な差が見られ(F(1,103)=8.07,p<.001),L条件で有意に多かった。

 次に,条件×カテゴリーにおける対処スタイル群の効果について1要因分散分析をおこなった結果,L条件の「失敗想定」では群間に有意な差が見られ(F(2,103)=10.40,p<.001),DP者・DEP者がSO者よりも多かった。
 J条件ではすべてのカテゴリにおいて群による有意な差は見られなかった。

 最後に,条件×対処スタイル群におけるカテゴリーの効果について1要因分散分析をおこなった結果,L条件ではSO者とDEP者において有意な差が見られ(F(2,102)=7.71,p<.001;F(2,102)=4.47,p<.05),SO者・DEP者ともに「失敗想定」「成功想定」よりも「成否除外」が高かった。
 J条件ではすべての群で有意な差が見られ(F(2,102)=27.86,p<.001:F(2,102)=35.05,p<.001;F(2,102)=21.07,p<.001),「成否除外」が「失敗想定」「成功想定」よりも多いという結果になった。

(2)時間的な展望についての結果

 対処スタイル群(SO者・DP者・DEP者)と条件(L条件とJ条件)によって,時間的な展望に差が生じるかを検討した。対処スタイル群(SO者・DP者・DEP者)×条件(L条件・J条件)×カテゴリー(「事前」「事後」)の3要因混合分析を実施した。その結果,カテゴリーの主効果が得られたが(F(1.103)=33.99,p<.001),この主効果は,対処スタイル群×条件×カテゴリーの3要因間の交互作用が有意であったため(F(2,103)=3.75,p<.05)限定される。そこで引き続き,得られた交互作用について単純主効果の検定をおこなった。

 まず,群×カテゴリーにおける条件の効果について1要因分散分析をおこなった結果,SO者はカテゴリーで条件間に差が見られ(F(1,103)=11.93,p<.001;F(1,103)=11.60,p<.001),「事前」ではJ条件が,「事後」ではL条件が多かった。 DP者はカテゴリーで条件間に差が見られ(F(1,103)=22.87,p<.001;F(1,103)=56.25,p<.001),「事前」ではJ条件が,「事後」ではL条件が多かった。
 DEP者はカテゴリーで条件間に差が見られ(F(1,103)=9.15,p<.01),「事後」ではL条件が多かった。

 次に,条件×カテゴリーにおける対処スタイル群の効果について1要因分散分析をおこなった結果,L条件は「事後」で群間に差が見られ(F(2,103)=8.99,p<.001),SO者よりもDP者の方が有意に多かった。
 J条件は群による効果はいずれも見られなかった。

 最後に,条件×対処スタイル群におけるカテゴリーの効果について1要因分散分析をおこなった結果,L条件はDP者でカテゴリー間に差が見られ(F(1,103)=15.90,p<.001),「事後」が多かった。
 J条件はすべての群でカテゴリー間に差が見られ(F(1,103)=30.34;F(1,103)=35.92;F(1,103)=18.47,いずれもp<.001),「事前」が多かった。

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