1.分析対象者について
回答に不備のあった者,および実験の意図に気付いていたと思われる者が存在したため,これらの者を除いて164名(平均年齢19.65歳,男性57名,女性106名,不明1名)のデータを用いて以降の分析を行った。
2.特性形容詞対尺度の因子分析
林(1978)にしたがって3因子解を仮定し,特性形容詞対尺度20項目について因子分析(重みなし最小2乗法,プロマックス回転)を行った。その結果,どの因子にも高い負荷を示さない(.40未満)6項目を除外し,再度,同じ手法で因子分析を行い3因子を抽出した。3因子までで全分散の49.913%が説明された。
第T因子には,“自信のない−自信のある”(.666),“恥じしらずの−恥ずかしがりの”(−.664),“沈んだ−うきうきした”(.559),“消極的な−積極的な”(.535)といった尺度項目が高い負荷を示しており,活動性と意志の強さが融合した「力本性」の次元であると解釈した。
第U因子に高い負荷を示した項目は“人のわるい−人のよい”(.705),“感じのわるい−感じのよい”(.680)といった尺度項目であった。したがって,第U因子は「対人的好ましさ」の次元であると解釈した。
第V因子は“近づきがたい−ひとなつっこい”(.572),“心のせまい−心のひろい”(.524)という2項目によって構成されており,どちらも他者に対して受容的か非受容的かという次元の特性であると考えられたので「受容性」の次元であると解釈した。
本研究では,従来の研究で見出されていた「社会的望ましさ」の次元が見出されず,この次元の下位項目は本研究における「力本性」の次元に含まれていた。
3.各要因と印象評定との関連
各因子に対して負の負荷を示す項目の得点を逆転させた上で,それぞれの因子に含まれる下位項目を足し合わせて,「力本性得点」,「対人的好ましさ得点」,「受容性得点」とした。また各下位尺度の内的整合性を確認するため,Cronbachのα係数を算出したところ,「力本性得点」はα=.752,「対人的好ましさ得点」はα=.719,「受容性得点」はα=.521を示し,「力本性得点」と「対人的好ましさ得点」では内的整合性が認められたが,「受容性得点」については十分な内的整合性が認められなかった。そのため,「受容性」得点は分析から除外した。
これら2つの尺度得点について,地位条件(2)×文脈条件(3)×他者条件(2)の3要因分散分析を行った。
その結果,「対人的好ましさ」得点において文脈条件の主効果が有意となった(F(2,152)=3.372,p<.05)。Tukey HSDによる多重比較を行ったところ,友好条件が敵意条件よりも高く,統制条件と友好条件,敵意条件とは有意な違いはなかった。「力本性」得点についてはどの条件間でも有意な差はみられなかった。
4.印象評定項目についての分析
特性形容詞対尺度についても,地位条件(2)×文脈条件(3)×他者条件(2)の3要因分散分析を行った。
その結果,
‘非社交的な−社交的な’(F(1,152)=6.747,p<.05),‘自信のない−自信のある’(F(1,152)=3.941,p<.05),‘短気な−気長な’(F(1,152)=5.993,p<.05)では地位条件の主効果が有意となり,‘非社交的な−社交的な’,‘自信のない−自信のある’は高地位条件が低地位条件よりも高く,‘短気な−気長な’は低地位条件が高地位条件よりも有意に高かった。
‘なまいきな−なまいきでない’(F(2,152)=3.664,p<.05),‘感じのわるい−感じのよい’(F(2,152)=3.365,p<.05),‘短気な−気長な’(F(2,152)=3.543,p<.05),‘不親切な−親切な’(F(2,152)=5.312,p<.01)の4項目については文脈条件の主効果が有意だった。Tukey HSDによる多重比較を行ったところ,‘なまいきな−なまいきでない’については敵意条件が統制条件よりも値が有意に低く,友好条件は統制条件,敵意条件ともに有意な差はなかった。‘感じのわるい−感じのよい’は敵意条件が友好条件よりも有意に低く,統制条件はどちらとも有意な差はなかった。‘短気な−気長な’については友好条件が統制条件よりも有意に高く,敵意条件はどちらの条件とも有意な差はなかった。‘不親切な−親切な’は友好条件が統制条件と敵意条件よりも有意に高く,統制条件と敵意条件の間には有意な差はみられなかった。
‘なまいきな−なまいきでない’では他者条件の主効果が有意となり,他者がいない条件に比べて他者条件において評価が低かった(F(1,152)=8.053,p<.01)。
‘沈んだ−うきうきした’(F(2,152)=3.244,p<.05)では地位条件と文脈条件の交互作用が有意となった。下位分析の結果,高地位条件における統制条件で他の群よりも有意に高く,高地位条件における友好条件で他の群よりも有意に低かった。
‘無気力な−意欲的な’では地位条件と他者条件の交互作用が有意となった(F(1,152)=5.842,p<.05)。下位分析の結果,低地位条件における他者無し条件で他の群よりも低かった。
5.優劣評定についての分析
知的特性と対人的特性の相補性について検討するため,すべての条件をこみにして‘頭の良さ’と‘心の広さ’の優劣評定について相関係数を算出した。その結果,有意な正の相関がみられ(r=.201,p<.01),‘頭の良さ’と‘心の広さ’の優劣評定は相補的な関係にはなっていなかった。
‘頭の良さ’および‘心の広さ’の優劣評定についても,地位条件(2)×文脈条件(3)×他者条件(2)の3要因分散分析を行った。その結果,‘頭の良さ’において地位条件と文脈条件の主効果が有意となり(順に,F(1,152)=16.681,p<.001;F(2,152)=4.401,p<.05),地位条件においては,高地位条件が低地位条件よりも有意に高かった。文脈条件について多重比較を行った結果,敵意条件が統制条件と友好条件よりも有意に高く,統制条件と友好条件の間では有意な差はみられなかった。‘心の広さ’については各条件の主効果,交互作用ともに有意ではなかった。
6.自由記述の分析
SPの行動に関する情報をどのように捉えて処理しているのかに関する指標を得ることを目的として,SPの望ましい行動(以下,P行動)と望ましくない行動(以下,N行動)を一つずつ提示し,それぞれの行動の原因を自由記述によって推測させた。 それによって得られた自由記述文を行動別に,SPに対してポジティブな帰属かネガティブな帰属かという観点で実験者によって分類が行われた。
その結果,“ネガティブな内的帰属(以下,N帰属)”,“ポジティブな内的帰属(以下,P帰属)”,“外的帰属”の3つのカテゴリーに分類された。その際,設問の意味を理解できていないと思われる記述,文章の解釈ができない記述は分析から除外された。
N行動に対する原因帰属(以下,N推論)
“N帰属”には「時間感覚が足りない」といった‘時間感覚の欠如’に関する記述,「罪悪感を感じていない」といった‘罪悪感の欠如’に関する記述が含まれていた。“外的帰属”には「気心の知れた仲だから」といった‘関係性への帰属’に関する記述,「謝るタイミングがなかったから」といった‘状況への帰属’に関する記述が含まれていた。“P帰属”には「遅刻した時間を取り戻すために急いだから」といった‘挽回’に関する記述が含まれていた。
P行動に対する原因帰属(以下,P推論)
“N帰属”には「人助けをしているところを見せたい」,「よく思われるために協力した」といった‘偽善’に関する記述が含まれていた。“外的帰属”には「呼びかけられたから」といった‘状況への帰属’に関する記述,「お菓子がもらえるから」といった‘見返り’に関する記述が含まれていた。“P帰属”には「人助けをするのが好きだから」,「困っている人を放っておけない」といった‘親切心’に関する記述が含まれていた。
この分類に従って各協力者に番号を付記し,全ての協力者をこみにして行動別に度数分布の検討を行ったところ,N推論については“N帰属”が,P推論については“P帰属”が半数以上を占めていた。つまり,どちらの行動においても,「行動の望ましさ」の評価と同じ方向への原因帰属が最も多かったということである。次いで外的な要因への帰属が多く,「行動の望ましさ」の評価と逆方向への帰属は最も少なかった。
さらに,行動の原因帰属の方向と各実験条件との関連を検討するため,N推論およびP推論それぞれについて,各実験条件と帰属方向のクロス集計を行い,カイ2乗検定を実施した。
その結果,
P推論において文脈条件による帰属方向の偏りが有意となった(χ2(4)=13.719,p<.01)。調整済み残差による検討を行った結果,統制条件は友好条件と敵意条件よりもN帰属が多く,友好条件は統制条件と敵意条件よりもP帰属が多く,敵意条件は統制条件と友好条件よりも外的な帰属が多かった。その他の実験条件と推論に関しては有意な差はみられなかった。