やせを賛美する社会風潮が行き渡っている現代社会では、
多くの女子が今よりもっとやせたいという「やせ願望」を抱いている。
このような背景をふまえ、本研究の大きな目的は、一般的に思春期、
青年期の多くの女子が抱いている「やせ願望」について、
いくつかの角度から検討することであった。 まず第一の目的は、
「やせ願望」と「べき思考」との関連を明らかにすることであった。
具体的には仮説一「やせ願望の高さにはべき思考の高さが関連している」、
仮説二「社会的な期待を強く受け止めていたとしても、
べき思考が高くなければやせ願望は高くならない」という二つの仮説を立て、
それを基に検証を進めていった。第二の目的は、「やせ願望」と「自己評価」
とがどのように関わり合っているのかを検討することであった。
そして、第三の目的は、実際の体型やボディイメージ、性差との関わりを調べ、
また、やせたい理由を実際に答えてもらうことなどにより、「やせ願望」を
より多面的にとらえることであった。
このような目的に基づいて、
男女大学生259名(男子112名、女子147名、男女共に平均年齢は18.6歳)
を対象に質問紙調査を行った。調査内容は、筆者自らが作成したやせ願望尺度、
社会的期待受容尺度、松村(1991)の日本版Irrational Belief Test(JIBT)
より一部を抜粋したべき思考尺度、梶田(1988)による自己評価的意識尺度を
用いた自己評価尺度、および体型やボディイメージ、やせたい理由などであった。
集めたデータをもとに目的に応じた分析を行った。
質問紙に用いた各尺度を男女を分析対象にした場合と、
女子のみを分析対象にした場合とに分けて因子分析した結果、
やせ願望尺度以外は共に同じような因子構造になり、べき思考尺度は「自己期待」
・「無力感」・「協調主義」の3因子構造、社会的期待受容尺度は「美への期待」
・「容姿偏重」の2因子構造、自己評価尺度は「自己防衛」・「自尊感情」の
2因子構造となった。やせ願望尺度においては、男女を分析対象にした場合
1因子構造となり、「やせについての意識」と命名した。一方女子のみを分析対象
にした場合は、「やせへのこだわり」と「ダイエット行動」という2因子構造になった。
第一、第二の目的に沿って、女子のみを分析対象にして各因子間の相関係数を
求めたところ、「やせへのこだわり」得点と「自己期待」得点、および「自己防衛」
得点との間に有意な正の相関がみられた。しかし、「自己期待」については、
2変数の相関係数は有意ではあるが極めて低い値であった。
次に同じく女子のみを対象にやせ願望得点HL群比較を行った結果、
「自己期待」得点、「自己防衛」得点の2変数で群間の有意な差がみられた。
さらに、女子のみを分析対象にしてやせ願望尺度得点を従属変数にした2
(「美への期待」得点HL群)×2(「自己期待」得点HL群および「自己防衛」得点HL群)
の分散分析を行った結果、そのすべてに有意な交互作用が見出された。これらの結果から、
「やせ願望」と「べき思考」には規則的関係はほとんど無いに等しいにせよ、
両者には何らかの関連性はあることがわかった。よって仮説一は一応の支持を得た。
しかし「やせ願望」と関連性があるのは、「べき思考」の中でも特に自分自身に対して
“〜べき”という考え方をすることだけだったことを付け足す必要があると考察した。
一方、仮説二は交互作用がみられたことにより支持されなかった。
「やせ願望」と「自己評価」との関連は特に仮説を立てず分析を進めていく
中でその関連性について探る形にしたのだが、分析を進める中で「やせ願望」
と「べき思考」との関連性よりも、「やせ願望」と「自己防衛」との関連性の
方が強いということが明らかになった。「自己防衛」は、他者の目を気にして
自分に自信がもてないといったような不安な感情を表していると思われた。
これらのことから、女子大学生におけるやせ願望には思考レベルに関わること
よりも不安などの感情レベルに関わることの方がより影響を与えているのではな
いかという考察をした。
第三の目的のうち性差については、先行研究と同様に女子の方が男子よりも「やせ願望」が高いという結果を得られた。さらに「美への期待」、「自尊感情」、「無力感」、「自己防衛」でも性差が見られたことも観点に加え、なぜ女子の方が男子よりも「やせ願望」が高いのかについて考察をした。体型とボディイメージとの関係については統計処理は行わなかった。しかし表やグラフにまとめたところ、女子において実際の体型が太っていないのにも関わらずやせ願望を抱いている者が多いことがわかった。また女子において、先行研究と同様に自分の体重を過大認知する傾向がみられた。やせたい理由について自由記述の回答結果を男女別にみたところ、男子では特に特徴だった回答はみられなかったが、女子においては服装や見た目に関することを答える者が多く、劣等感や自信などとやせ願望との関わりについて述べられた回答が数人でみられた。