全体要約
今日、学校で大きな問題となっているものに不登校が挙げられる。これは、会話場面など対人相互作用場面で対人不安が生じ、うまくコミュニケーションできないことが一因とされている。
会話中不安が生じる要因のひとつとして、社会的スキルの欠如が指摘されている。この社会的スキルにはノンバーバル行動についてのノンバーバルスキルがある。和田(1990)によると、このノンバーバルコミュニケーションは、特に会話コミュニケーションにおいて注目されている。このため、ノンバーバルスキルを高めることが不安の低減につながると考えられる。本研究では、ノンバーバル行動のうち比較的容易にスキルアップできると考えられる要因として特に対人距離に注目した。
以上より、本研究では、以下の仮説をもとに検討した。
1. 対人距離によって不安感情の変化に違いが見られる。
2. ノンバーバルスキルが低いと、会話場面において対人距離が近いとき、会話後の不安感情が会話前に比べて高くなる。
被験者は三重大学学生34名(男性18名、女性16名)で、あらかじめ距離の設定された近距離条件(76.2cm)、遠距離条件(213.4cm)の2条件のどちらかの椅子に座って実験協力者とともに2人一組で5分間会話させ、その前後で状態不安に関する質問紙に回答するよう求めた。また、会話後の質問紙では、状態不安に合わせてノンバーバルスキルに関する尺度の質問をした。
分析においてノンバーバル感受性、ノンバーバル統制、ノンバーバル表出性に分け、それぞれ平均値で高群と低群に分け分析を行った。
その結果、会話前に比べて会話後には不安が有意に低下していた。
しかし、仮説1では対人距離による不安感情の変化はみられず仮説1は支持されなかったが、遠距離条件の方が近距離条件よりも会話後の不安が低い傾向があった。
また、仮説2では、ノンバーバル統制得点の低群において、会話前後の不安の変化と対人距離の単純交互作用がみられた。ノンバーバル感受性スキルとノンバーバル表出性スキルについては有意な差は見られなかった。以上より仮説2についても支持されなかった。しかし、この中でノンバーバル統制スキルについて、ノンバーバル統制スキルが低いと、対人距離が遠いとき、会話前に高かった不安が特に低下する傾向があることが示された。