佐野文香の卒論
問題意識と目的
- 気分調整を促進する自伝的記憶の性質について,さらに細かな検討が必要
近年では,記憶を利用した臨床技法(回想法が有名です)についての研究が進められています。
また,実験的な操作という目的で記憶を利用するという事もあります。たとえば,イメージ法では,実験参加者に特定の感情価を持つ記憶を想起させて,参加者の気分状態を誘導します。
このように,自伝的記憶と気分の関係を利用した研究が増えている中,自伝的記憶と気分の関係をより詳しく検討し精緻化していこうとする研究は非常に少ないのが現状です。
どんな自伝的記憶が気分変化へつながるのかという点について研究する事で,自伝的記憶を応用させた研究もますます発展していくことでしょう。
そこで本研究では,気分調整を促進させる自伝的記憶の性質を,ポジティブさ,重要さ,詳細さの3つに設定し,より細かな検討を行います。
これら3つは今まで別々に研究されてきましたが,それぞれの性質の区別自体も曖昧であるため(重要な記憶と詳細な記憶はどう違うのでしょうか?),これらを同時に扱い,包括的な検討を行う必要があると考えられます。
- ネガティブ気分を改善しやすい人,しにくい人
しかしここで,気分調整に強く影響するであろう要因のことを考慮しておかなければなりません。
その人がそもそも気分を切り替えやすい人であるか,それともなかなかその気分状態から抜け出せない人であるか。
つまり,その人の気分を緩和しようとする気持ち,態度(これは近年気分緩和動機と呼ばれています)が,
自伝的記憶想起以前に強く結果に影響してくる可能性があります。
また,前述の抑うつ傾向の高い人は詳細な記憶を想起できないという示唆より,その時の気分状態も同様に考慮していかなくてはなりません。
つまり,この要因の影響を統制した上での検討が必要となります。