要旨  問題と目的  方法  結果  引用文献


考察




 本研究の目的は、送り手の要因とメッセージの要因を考慮した上で、ジェンダーパーソナリティーと外向性が態度変容に与える影響を明らかにすることであった。

1.操作チェック

 実験条件の操作が実験者の意図通りに働いているかを確認するため、実験条件を独立変数、操作チェックの項目を従属変数とした分散分析をおこなった。

その結果、説得者の専門度においては交互作用およびいずれの主効果も認められなかった。また、意見の納得度においては、論拠の主効果のみが認められ、論拠強の方が論拠弱よりも平均値が高かった。

この結果からは、専門度の操作は失敗し、論拠の操作は成功したといえる。専門度の操作の失敗の理由には次のことが考えられる。

専門度の操作は、意見の記述者を「T大学教育学部A教授」と教示するか「T大学教育学部4年生Aさん」と教示するかでおこなわれている。

教育学部の4年生というのは、大学の講義のみではなく、教育実習や教員採用試験など多くの経験をしている。被験者の多くは教育学部に所属する者であり、

そのこと知る彼らにとって、教育学部の4年生は充分に専門性の高い存在であると認識されているのではないだろうか。また、有意ではなかったものの、

専門高における論拠強弱間の説得者の専門度の平均値の差が.299であり、論拠強における専門高低間の説得者の専門度の平均値の差(.224)よりも大きい。

質問紙の構成が、意見の記述者の教示、意見文、説得者に対する評価、という順番でされていたため、被験者は意見文の内容も加味して説得者の専門度を判断していたのかもしれない。

操作チェックの項目を質問紙中のどこに位置させるべきか、今後の課題となるだろう。一方、論拠の操作は成功しており、伊藤(2002)と同様であった。

2.性差

 各下位尺度得点の性別による差をみるために、t検定をおこなった。その結果、「男性性」得点は男性の方が有意に高かったが、「女性性」得点においては、性別による有意な差がみられなかった。

この結果は、東(1991)と一致しており、BSRI尺度が作成された時代よりも男性の「女性性」が高くなった、あるいは女性の「女性性」が低くなったことがうかがえる。

3.ジェンダーパーソナリティー・外向性から説得者の印象・意見の評価・態度変容への影響

3-1.専門高・論拠強条件

「男性性」から「意見の納得度」「意見の好ましさ」「差・好ましさ」に負の影響が見られた。つまり、男性性が高い人ほど、意見に対する評価を低くしており、態度も唱導方向とは逆方向に変容している。

上野(1994)は説得メッセージの圧力が大きくなると男性は説得への抵抗を示すことを明らかにしている。専門高・論拠強条件というのは、意見の記述者が大学教授であり、意見の内容は納得しやすいものであり、

説得者から態度を変容させようという大きな圧力を感じたということが考えられる。そのため「男性性」が高い者ほど抵抗が生まれ、意見に対する評価を低くし、態度の変容も唱導方向とは逆方向になったと思われる。

よって、この条件において仮説1は支持されたといえよう。

3-2.専門高・論拠弱条件

「女性性」から「説得者の信頼度」「説得者の専門度」「意見の好ましさ」に正の影響が見られた。つまり、女性性が高い人ほど、説得者に対して良い印象を持ち、意見に対する評価を高いという結果になった。

よって、この条件において仮説2は支持されたといえよう。説得の二過程モデル(Petty&Cacioppo,1986:Chaiken,1980)から考えると、「女性性」が高い者は意見の記述者が大学教授であるからという理由で、

その意見も好ましいものであると評価するという、周辺ルートを通る、あるいはヒューリスティックな情報処理をしているのではないだろうか。しかし、もしそうであれば、専門高・論拠強条件でも同じような結果が出るはずだが、

そのような結果は見られなかった。本研究では説得の過程についての検証まではおこなっていないため、今後過程を含めてより詳細に検討することが必要であるといえよう。

「外向性」から「説得者の信頼度」「意見の納得度」「意見の好ましさ」「差・好ましさ」に負の影響が見られた。つまり、外向性が高い人ほど、説得者に対して良い印象を持たず、意見に対する評価を低く、また態度は唱導方向と逆方向に変容している。

三和(2013)は、小説を読んだ後の感情状態形成モデルの研究を行っており、外向性が高い者ほど共感や同情が強まるという因果関係を明らかにしている。専門高・論拠低条件というのは、意見の記述者が大学教授であり、

意見の要旨が大学の財政安定のために卒業試験の導入をするというものであった。大学の財政が安定するということは、大学教授にとって望ましいことであると被験者が読み取った可能性が推測される。

このことが説得者の信憑性に繋がってきていると考えられる。Hovlando & Weiss(1952)は、提唱している立場によってその説得者が得をするとみなされていたり、私的理由からその立場をとっていると見なされたりすると、

説得者の信頼性が低下し、説得力が弱くなると述べている。外向性の高い者は、説得者が私的な理由から説得をしていると判断し、説得者に対して良い印象を持たず、態度を唱導方向とは逆方向に変容させたのであろう。

3-3.専門低・論拠強条件

「男性性×女性性」から「説得者の信頼度」に負の影響が見られた。散布図から読み取ると、男性性高群・低群どちらも「女性性」が高くなるほど「説得者の信頼度」が高くなっている。

しかし、男性性高群の方が、男性性低群よりも傾きは小さくなっている。このことから、「女性性」が高いほど、説得者への信頼は抱きやすいが、「男性性」はそれを抑圧するはたらきを持っているものと考えられる。

これは、仮説1と2を同時に支持する結果となった。

3-4.専門低・論拠弱条件

「男性性」から「説得者の専門度」「説得者の好ましさ」に正の影響が見られた。つまり、男性性が高い人ほど、説得者に対して良い印象を受けている。このことは仮説1とは逆の結果である。

意見の記述者が大学生であり、意見の内容は納得しにくいものであるため、被験者はあまり圧力を感じることがなく、「男性性」が高い者ほど説得者に対する印象がよくなったのであろう。

4.説得者の印象・意見の評価から態度変容への影響

条件全体でみると、「説得者の好ましさ」「説得者の信頼度」「説得者の専門度」「意見の好ましさ」から「差・好ましさ」あるいは「差・好ましさ」へ正の影響が見られている。

これらの結果は、仮説4、仮説5を支持するものであり、これまでの信憑性や好意度に関連する研究から裏付けられる。しかし、専門低・論拠強条件において「説得者の信頼度」から「差・賛成度」に負の影響が見られている。

意見の評価や説得者の印象から態度へ負の影響が見られたのはここだけであり、これは仮説4を支持しない結果となった。この理由として、「説得者の信頼度」の項目に被験者が回答するにあたって、設定していない要因が働いていることが予想されるが、今回の研究では説得の過程を見ていないため、明らかにはできなかった。

5.総合考察

 本研究の目的は、送り手の要因とメッセージの要因を考慮した上で、ジェンダーパーソナリティーと外向性が態度変容に与える影響を明らかにすることであった。

「男性性」が高い者に対して、大学教授のような専門性が高い説得者から、納得しやすい内容のメッセージによる説得をおこなうと、被説得者は意見に対する評価を低くし、態度は唱導方向とは逆方向に変容している。

一方で、学生のような専門性が低い説得者から、納得しにくい内容のメッセージによる説得をおこなうと、被説得者は説得者に対する評価を良くしている。

つまり、「男性性」が高い者に対しては、説得者は自分の肩書を強調することなく、論拠を強調しないようなメッセージで、説得の圧力を感じさせないようにすることで、唱導方向に態度を変容させることができるであろう。

「女性性」が高い者に対して、大学教授のような専門性が高い説得者から、論拠が弱い内容のメッセージによる説得をおこなうと、被説得者は説得者に対する評価を良くし、意見に対する評価も良くしている。

つまり、「女性性」が高い者に対しては、説得者は自分の肩書が専門的であればそれを強調することで、説得者への印象を良くさせることができるであろう。

「外向性」が高い者に対して大学教授のような専門性が高い説得者から、論拠が弱い内容のメッセージによる説得をおこなうと、説得者に対する印象や意見に対する評価を低くし、態度は唱導方向と逆に変容している。

この条件は、説得者が私的な理由で説得をおこなっているものと考えられるものであった。つまり、「外向性」が高い者に対しては、私的な理由で説得をおこなっていると思われないような内容のメッセージを選んで説得するとよいだろう。

 以上のことから、ジェンダーパーソナリティーや外向性という受け手の要因にあわせて、説得者の専門性という送り手の要因やメッセージの論拠というメッセージの要因を変えることで効果的な説得ができるであろう。

 今後の課題として以下の2点があげられる。説得者の印象や意見の評価が態度の変容に正の影響が見られたが、一部で負の影響が見られている。このことから、設定した要因以外の要因が働いていることも予想し、実験デザインの構成を検討することがあげられる。

そして、交互作用については一貫した結果が見られず、本研究においては明らかにできなかった。この点においても、実験デザインの構成を検討し、今後の課題としたい。