(1) 対象者
実験群A:三重県内のM大学の学生
事前34名・事後26名(うち有効回答数24名)
三重県内のm大学の学生
事前54名・事後44名(うち有効回答数20名)
愛知県内のN大学の学生
事前55名・事後48名(うち有効回答数34名)
事前 計143名 事後 計118名(うち有効回答数78名)
実験群B:三重県内のM大学の学生
事前98名・事後83名(うち有効回答数72名)
三重県内のm大学の学生
事前49名・事後45名(うち有効回答数15名)
事前 計147名 事後 計128名(うち有効回答数87名)
統制群C:三重県内のM大学の学生
事前57名・事後57名(うち有効回答数44名)
(2) 実施期間
2002年11月上旬から12月上旬
(3) 実験手続き
11月5日、三重県内のM大学の1講座を受講する80名の大学生に対して、「大学生活の中で同性であり、苦手だが今後もっとうまくつきあえたらいいのになあ、と思う相手のイニシャル」を記入させた。そして、円滑な意志疎通尺度・関係作りへの努力尺度・無理のない関わり尺度・自己肯定尺度についての30項目からなる質問紙と、選んだイニシャルの相手との今の関係を、それなりにうまくいっていると思う時を10、全くうまくいっていないと思う時を0として数値化するスケーリングクエスチョンに回答させた(以下事前テストという)。その後「うまくやっているところ」を記入させ、被験者が書いた「うまくやっているところ」を1週間の間意識し、繰り返しやってみるように教示した文章(「課題」)を読ませる実験プログラム(実験群A・以下プログラムA)を34名の大学生に、「うまくやっているところ」のみを記入させる実験プログラム(実験群B・以下プログラムB)を46名の大学生に引き続き実施した。その1週間後の11月12日に、事後テストとして事前テストと同じ円滑な意志疎通尺度・関係作りへの努力尺度・無理のない関わり尺度・自己肯定尺度についての30項目からなる質問紙と、選んだイニシャルの相手との今の関係を、それなりにうまくいっていると思う時を10、全くうまくいっていないと思う時を0として数値化するスケーリングクエスチョンに回答させた(以下事後テストという)。
11月14日、三重県内のm大学の1講座を受講する99名の大学生に対して、事前テストに回答させた。その後プログラムAを34名の大学生に、プログラムBを49名の大学生に引き続き実施した。その1週間後の11月21日に事後テストに回答させた。
11月15日、三重県内のM大学の1講座を受講する57名の大学生に対して、事前テストに回答させた。その1週間後の11月22日に事後テストに回答させた(統制群C、実験プログラム無し)。
11月25日、三重県内のM大学の1講座を受講する52名の大学生に対して、事前テストに回答させた。その後プログラムBを引き続き実施した。その1週間後の12月2日に事後テストに回答させた。
11月27日、愛知県内のN大学の1講座を受講する55名の大学生に対して、事前テストに回答させた。その後プログラムAを引き続き実施した。その1週間後の12月4日に事後テストに回答させた。
実験群A・実験群Bでは、事前テストを回答させる前に実験プログラムで記入する「うまくやっているところ」がどのようなものかということを、『授業でのあなたの受講態度』を例に出して、被験者の前で黒板を使って説明した。
プログラムは、事前テストと一緒に一斉に配り、進めていった。大学生は、事前テストを回答した後すぐにプログラムを読み、記入した。
大学生のプライバシー保護のため、「コンピュータで全て統計的に処理されますので、あなたの考えをほかの人に知られることはありません。あなたの思ったとおりに、正直にお答えできる範囲で答えてください。」とし、無記名で記入させたが、分析の際に回答者を特定するために、学年と学部、性別、自宅の電話番号下4桁を記入させた。
実験A、実験Bともに事前テストの時間も含めて25分〜30分、事後テストは10分〜15分で行った。
(4)実験プログラムA・Bについて
実験プログラムは、SFAの技法をもとに、「うまくやっているところ」を引き出し、「課題」を与えるプログラムを実施するものを実験プログラムAと、「うまくやっているところ」を引き出すのみ行う実験プログラムBの2種類を作成した。
実験プログラムAは、問1で、被験者は「大学生活の中で、大学生で同性であり、苦手である・気をつかってしまう・うまくつきあえない・つきあいにくいという人で、今後もっとうまくつきあえたらいいのになあ、と思う相手」を思い浮かべて指定し、イニシャルを書いた。そして、その相手との関係をよく思い出しながら、問2でつきあい意識尺度を回答した。問3で選んだイニシャルの相手との今の関係を、それなりにうまくいっていると思う時を10、全くうまくいっていないと思う時を0として数値化するスケーリングクエスチョンで自己評定を行った。問4では、「今までに自分なりにしてきたこと(どのように相手と接してきたか、うまくいったこと、努力したことなど)を、どんなことでもかまわないので、いつごろ、どこで、何をどのようにしたのかを具体的に、思いつく限り書き出してください。」と尋ねて、被験者はうまくいっているところを思い出し、書き出した。そして最後に問5で実験者からの伝言として、「今日から1週間の間、問1で選んだイニシャルの相手と出会ったときには問4で書いたようなうまくいっている時の行いを1つか2つ意識してやってみて下さい。」という課題を付け加えた。
実験プログラムBでは、問1で、「大学生活の中で、大学生で同性であり、苦手である・気をつかってしまう・うまくつきあえない・つきあいにくいという人を一人選んで下さい」とし、被験者は特定の相手を思い浮かべて指定し、イニシャルを書いた。そして、その相手との関係をよく思い出しながら、問2でつきあい意識尺度を回答した。問3で選んだイニシャルの相手との今の関係を、それなりにうまくいっていると思う時を10、全くうまくいっていないと思う時を0として数値化するスケーリングクエスチョンで自己評定を行った。問4では、「今までに自分なりにしてきたこと(どのように相手と接してきたか、うまくいったこと、努力したことなど)を、どんなことでもかまわないので、いつごろ、どこで、何をどのようにしたのかを具体的に、思いつく限り書き出してください。」と尋ねて、被験者はうまくいっているところを思い出し、書き出した。
実験プログラムA・BともにSFAの技法をもとにしたものであるが、実験プログラムAは「うまくやっているところ」を引き出して、その引き出した「うまくいっているところ」を1週間引き続いて行ってもらう、という課題を教示して被験者に「うまくいっているところ」を繰り返しやってもらうアプローチであるのに対して、実験プログラムBは「うまくやっているところ」を引き出すだけのアプローチであるというところがこの2つの実験プログラムの大きな違いである。
V-4、結果
(1) 事前事後間と実験群間の差に関する結果
事前事後間と実験群間の差を明らかにするため、つきあい意識尺度・円滑な意志疎通尺度・関係作りへの努力尺度・無理のない関わり尺度・自己肯定尺度について、事前事後間(2:事前・事後)×実験群間(3:実験群A・実験群B・統制群C)の2要因分散分析を行った。
@つきあい意識尺度について
2要因分散分析の結果、事前事後間・実験群間の主効果(事前事後間:F(1,203)=0.74, n.s. 実験群間:F(2,203)=0.31, n.s.)・交互作用(F(2,203)=0.89, n.s.)ともに有意でなかった(Fig. 1)。
A円滑な意志疎通尺度について
2要因分散分析の結果、事前事後間・実験群間の主効果(事前事後間:F(1,206)=0.88, n.s. 実験群間:F(2,206)=0.01, n.s.)・交互作用(F(2,206)=0.71, n.s.)ともに有意でなかった(Fig. 2)。
B関係作りへの努力尺度について
2要因分散分析の結果、実験群間の主効果(F(2,203)=0.48, n.s.)・交互作用(F(2,203)=1.75, n.s.)ともに有意でなかったが、事前事後間の主効果(F(1,203)=8.18, p<.01)は有意であった(Fig. 3)。
C無理のない関わり尺度について
2要因分散分析の結果、実験群別の主効果(F(2,206)=0.06, n.s.)・交互作用(F(2,206)=0.36, n.s.)ともに有意でなかったが、事前事後間の主効果(F(1,206)=8.18, p<.01)は有意であった(Fig. 4)。
D自己肯定尺度について
2要因分散分析の結果、自己肯定尺度については、事前事後間、実験群間の主効果(事前事後間:F(1,206)=1.59, n.s. 実験群間:F(2,206)=0.69, n.s.)・交互作用(F(2,206)=0.25, n.s.)ともに有意でなかった(Fig. 5)。
(2) 事前スケール値による群分け
事前テストのスケール値(0〜10)の平均は4.8、標準偏差は1.88、有効数は165であった。そこで、0〜4をつけた被験者をLow群、5をつけた被験者をMiddle群、6〜10をつけた被験者をHigh群とした(Fig. 6)。
(3) 事前事後間とスケール値群間の差に関する結果
事前事後間の差とスケール値群間の差を明らかにするため、つきあい意識尺度・円滑な意志疎通尺度・関係作りへの努力尺度・無理のない関わり尺度・自己肯定尺度について事前事後間(2:事前・事後)×スケール値群別(3:Low群・Middle群・High群)の2要因分散分析を行った。
@つきあい意識尺度について
2要因分散分析の結果、事前事後間の主効果(F(1,159)=3.16, n.s.)・交互作用(F(2,159)=0.37, n.s.)ともに有意でなかったが、スケール値群間の主効果(F(2,159)=12.76, p<.001)は有意であった(Fig. 7)。
そこで、Tukeyの多重比較を行ったところ、事前・事後ともにLow群―Middle群、Low群―High群それぞれに有意であった。
A円滑な意志疎通尺度について
2要因分散分析の結果、事前事後間の主効果(F(1,162)=2.52, n.s.)・交互作用(F(2,162)=2.49, n.s.)ともに有意でなかったが、スケール群間の主効果(F(2,162)=15.94, p<.001)は有意であった(Fig. 8)。
そこで、Tukeyの多重比較を行ったところ、事前・事後ともにLow群―Middle群、Low群―High群それぞれに有意であった。
B関係作りへの努力尺度について
2要因分散分析の結果、事前事後間、スケール値群別の主効果(事前事後間:F(1,159)=1.93, n.s. スケール値群別:F(2,159)=1.88, n.s.)・交互作用(F(2,159)=0.16, n.s.)ともに有意でなかった(Fig. 9)。
C無理のない関わり尺度について
2要因分散分析の結果スケール値群間の主効果(F(2,162)=0.26, n.s.)・交互作用(F(2,162)=0.17, n.s.)ともに有意でなかったが、事前事後間の主効果(F(1,162)=4.91, p<.05)は有意であった(Fig. 10)。
D自己肯定尺度について
2要因分散分析の結果、事前事後間の主効果(F(1,162)=3.34, n.s.)、スケール値群間の主効果 (F(2,162)=1.16, n.s.)・交互作用(F(2,162)=0.12, n.s.)ともに有意でなかった(Fig. 11)。
(4) スケール値の変化
@事前事後間と実験群間のスケール値の差に関する結果
事前事後間の差と実験群間のスケール値の差を明らかにするため、スケール値について事前事後間(2:事前・事後)×実験群間(3:実験群A・実験群B・統制群C)の2要因分散分析を行った。
2要因分散分析の結果、実験群間の主効果(F(2,201)=1.11, n.s.)・交互作用(F(2,201)=0.82, n.s.)ともに有意でなかったが、事前事後間の主効果(F(1,201)=4.89, p<.05)は有意であった (Fig. 12)。
A事前事後間とスケール値群間のスケール値の差に関する結果
事前事後間の差とスケール値群間のスケール値の差を明らかにするため、スケール値について事前事後間(2:事前・事後)×スケール値群間(3:Low群・Middle群・High群)の2要因分散分析を行った。
2要因分散分析の結果、スケール群間の主効果(F(2,160)=161.75, p<.001)、事前事後間の主効果(F(1,160)=8.46, p<.01)、交互作用(F(2,160)=4.66, p<.05)すべて有意であった(Fig. 13)。
そこで、Tukeyの多重比較を行ったところ、事前事後ともにLow群―Middle群、Low群―High群,Midde群―High群すべてが有意であった。
単純主効果の検定を行ったところ、Low群の事前事後間、Middle群の事前事後間は有意であり、High群の事前事後間は有意でなかった。また、事前・事後ともに、Low群―Middle群、Low群―High群、Middle群―High群全てにおいて有意であった。
V-5、考察
(1) 事前事後間と実験群間の差に関する考察
つきあい意識尺度の全体得点について見てみると、Fig. 1より、事前事後間や実験群A・実験群B・統制群Cの3群間の変化に有意な差が見られなかった。よって、つきあい意識全体得点については、仮説1は支持されなかったといえる。
また、下位尺度を見てみると、円滑な意志疎通尺度については、Fig. 2より、事前事後間や実験群A・実験群B・統制群Cの3群間の変化に有意な差は見られなかったが、実験群Aが上昇傾向にあった。よって、円滑な意志疎通尺度における仮説1は、支持される傾向にあるといえる。
関係作りへの努力尺度については、Fig. 3より、実験群A・実験群B・統制群Cの3群間の変化に有意な差は見られなかったが、事前事後間において下降するという有意な差が見られた。特に、統制群Cが事前事後間において有意に下降していたがその原因はよくわからない。よって、関係作りへの努力尺度における仮説1は、支持されなかったといえる。
無理のない関わり尺度については、Fig. 4より、実験群A・実験群B・統制群Cの3群間に変化の差は見られなかった。事前事後間において上昇するという有意な差が見られたが、各実験群(A・B・C)それぞれの事前事後間において有意な差は見られなかった。よって、無理のない関わり尺度における仮説1は支持されなかったといえる。
自己肯定尺度については、Fig. 5より、事前事後間や実験群A・実験群B・統制群Cの3群間の変化に有意な差は見られなかった。よって、自己肯定尺度における仮説1は、支持されなかったといえる。
以上の事から、つきあい意識全体においては仮説1が支持されなかった。また、下位尺度においては、円滑な意志疎通尺度において実験群Aに上昇傾向が見られ、円滑な意志疎通尺度においては仮説1が支持される傾向にあるといえる。
(2) 事前事後間とスケール値群間の差に関する考察
事前テストのスケール値から、0〜4をつけた被験者をLow群、5をつけた被験者をMiddle群、6〜10をつけた被験者をHigh群として、スケール値群に分けた。
つきあい意識尺度の全体得点について見てみると、Fig. 7より、事前事後間の変化に有意な差は見られなかったが、スケール値群間(Low群・Middle群・High群)に有意な差が見られた。また、多重比較の結果、事前テストのスケール値と事後テストのスケール値それぞれにおいて、Low群―Middle群、Low群―High群に有意な差が見られた。よって、つきあい意識全体得点については、仮説2は支持されなかったといえる。
また、下位尺度を見てみると、円滑な意志疎通尺度については、Fig. 8より、事前事後間の変化に有意な差は見られなかったが、スケール値群間(Low群・Middle群・High群)に有意な差が見られた。また、多重比較の結果、事前テストのスケール値と事後テストのスケール値それぞれにおいて、Low群―Middle群、Low群―High群に有意な差が見られた。
よって、円滑な意志疎通尺度における仮説2は、支持されなかったといえる。
関係作りへの努力尺度については、Fig. 9より、事前事後間やスケール値群間(Low群・Middle群・High群)の変化に有意な差は見られなかった。よって、円滑な意志疎通尺度における仮説2は、支持されなかったといえる。
無理のない関わり尺度については、Fig. 10より、スケール値群間(Low群・Middle群・High群)に変化の差は見られなかった。事前事後間において上昇するという有意な差が見られたが、各スケール値群(Low群・Middle群・High群)において有意な差は見られなかった。よって、無理のない関わり尺度における仮説2は、支持なかったといえる。
自己肯定尺度については、Fig. 11より、事前事後間やスケール値群間(Low群・Middle群・High群)の変化に有意な差は見られなかった。よって、自己肯定尺度における仮説2は、支持されなかったといえる。
以上の事から、つきあい意識全体においては仮説2が支持されなかった。そして、下位尺度全てにおいても仮説2は支持されなかった。
また、事前テストにおける、つきあい意識尺度・円滑な意志疎通尺度・自己肯定尺度の各得点は、低い方から順にLow群・Middle群・High群となっており、事前テストのスケール値が低いスケール値群ほど各尺度の得点が低かった。
(3)スケール値についての考察
事前・事後テストにおいて、被験者にうまくつきあえていない相手との関係を10段階でスケール値として表してもらった。
事前事後間と実験群A・実験群B・統制群Cの3群間のスケール値の差については、
Fig. 12より、3実験群間(A・B・C)ならびに交互作用に、有意な差が見られなかったが、事前事後間において上昇するという有意な差が見られ、特に、実験群Aが事前事後間において有意に上昇していた。
以上の事から、事前事後間と実験群A・実験群B・統制群Cの3群間のスケール値の差については、実験Aと実験Bに効果の差は見られず支持されなかったが、実験群A・Bともにスケール値の上昇が見られ、スケール値の変化における仮説1ついては、支持される傾向にあるといえる。
事前事後間とスケール値群間(Low群・Middle群・High群)のスケール値の差については、Fig. 13より、スケール値群間(Low群・Middle群・High群)、事前事後間の変化に有意な差が見られた。また、Low群・Middle群が上昇し、High群が下降しており、有意な交互作用がみられた。Low群ならびにMiddle群においては事前スケール値よりも事後のスケール値の方が上昇しており、それぞれ有意な差であった。また、Middle 群よりもLow群の方が、事前事後間の差が大きかった。事前・事後ともにLow群―Middle群、Low群―High群、Middle群―High群それぞれに有意な差があった。
以上の事から、事前事後間とスケール値群間(Low群・Middle群・High群)のスケール値の差における仮説2については、支持された。