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本研究において、先行研究からの変更点は、大きく2つあった。1つ目に実験形式ではなく質問紙調査法により多数の被験者数の確保をすることにあった。2つ目に先行研究では男性だけの実験であったため、妥当性を増す目的で、女性も含めた調査にしたことにあった。また、実験自体が20年以上前のものであるため、変化した現代に適合している研究内容といえるかを同時に検討したものであった。本研究のχ2検定の結果から、RSM得点の高低群で魅力の重視に偏りが見られなかった。また、性差による分析も同時に行った。しかし、男性、女性共にRSM高低での有意な差は検出されなかった。Snyderら(1985)は男性だけでの検証であったため、男性には有意な差が現れる可能性が存在したが、その可能性も否定された。これらの結果より、Snyderら
(1985)の実験と同様の結果は得られなかった。この結果から、仮説1の前半は支持されたといえよう。また、現実条件において外見重視を選択した人は、内面重視を選択した人に比べ自己呈示変容能力得点が高い傾向にあった。仮説1の後半の「現実場面において外見重視には、自己呈示変容能力が有意に高くなる」は支持された。しかし、他者行動敏感能力には有意差がなかったことから「内面重視には、他者行動敏感能力が有意に高くなる」の仮説は不支持
となった。また、理想条件では、外見重視が内面重視に比べ、自己呈示変容能力と他者行動敏感能力得点が高くなるという結果を得た。これらの現実―理想条件での結果から、RSM能力をHSMとLSMに分けて魅力選択に差が出るとしたSnyder(1985)らの見解は否定されたものの、RSMの高さと魅力の関係性を否定するには至らなかった。総じて、RSMと魅力選択の関連性は否定しきれないものの、Snyderら(1985)の研究結果と同様のものは本研究では得られなかったことになった。やはり、被験者が少人数であったことなどから、先行研究の結果には妥当性が低かったことが示唆された。同時に、異なる要因が、SM能力が予測する魅力選択に対し影響を及ぼしている可能性が明らかになった。また、自己呈示変容能力は拒否不安と有意な負の関連があるとし、仮説1を立てたが、実際には拒否不安と正の関連があったにも関わらず外見を重視していた結果となった。この理由は、後の考察で記述していく。
本研究の目的の2つ目はRSM能力と拒否不安の関連性にあった。相関の結果より、RSM両下位因子を含め、SMと拒否不安との間には正の相関があることが明らかになった。これらの結果により、「空気を読むことができ、自己を有用に変化することができる人」は、他者を恐れやすいという傾向を持つことを示唆した。この見解について以下、RSM下位因子ごとに考察をしていく。自己呈示変容能力に関しては、分散分析の結果、自己呈示変容能力の高群は拒否不安が高いことも明らかになった。これらは、自己呈示変容能力は拒否不安を低下させるとした仮説2前半部とは反する結果となった。諸井(1997)によれば、自己呈示変容能力は自己を自由自在に変容することができるために、対人不安を低下させる傾向があるとした。しかし、自己呈示変容能力に関して今回の結果は諸井(1997)の見解とは逆の結果となった。佐藤(1995)によると、青年期には、仲間外れにされないように、たとえ自分が出せなくても凝集性の高いグループの中に存在していたいと考えているとした。そして、そのような人たちは、集団の中で嫌われないように心掛けていることが必要になり、また集団内の他者に対しての配慮が必要になってくる。つまり、拒否不安は結果的に集団でうまくやっていくための社会的スキルの働きを持っているとの見解を示した。この佐藤(1995)を通して今回の結果を考えてみると、拒否不安を持つことは、他者から嫌われないようにするため他者に対しても格別の配慮を持つようになるだろう。このような過程を通して、他者に対して自分をうまく隠すような自己呈示を行うようになっていく。他者に対し自己呈示を恒常的に行っていくことで、徐々に印象操作の方法を習得していくことになるだろう。そのため、拒否不安の高さは、自己呈示をどれほど意図的に相手に自分が与えたい印象を上手く与えられるかという能力である自己呈示変容能力の高さとの関連をみせたということになる。 次に、他者行動敏感能力と拒否不安との関連を考えていく。他者行動敏感能力は、いわゆる「空気を読む能力」のことを指すが、諸井(1997)は、「様々な情報を集めるあまり、どのような自己を見せることが有効な印象操作につながるのか等の混乱が生じる。そして、そのような混乱が対人不安を生起する」とした。しかし、本研究において分散分析の結果は、他者行動敏感能力の得点の高群と低群の間、また高群と中群そして低群の間で拒否不安得点に有意な差はみられなかった。これらの結果から、仮説に適合するような結果は検出されなかった。ところが、拒否不安と他者行動敏感能力とに正の相関があったこと、また重回帰分析の結果、拒否不安が他者行動敏感能力に有意な正の影響を持っていたことから、他者行動敏感能力の高さは拒否不安の高さと関連がある可能性は捨てきれないだろう。関連性があるとみれば、上記の諸井(1997)の見解は概ね支持されたということができるだろう。この結果から、他者行動敏感能力に関する仮説2後半は支持
されたといえよう。
本研究の3つ目の目的として、拒否不安を条件として統制し、その中でSM能力が魅力選択に及ぼす影響を検討することにあった。現実―理想条件を作ることで魅力選択に差が出るかを検討した。まずは、拒否不安が発生する現実条件と拒否不安が発生しない理想条件を比較することで状況としての拒否不安の有無が魅力選択に影響を及ぼしているのかを検討した。自己呈示変容能力高低群と他者行動敏感能力の高低群を掛け合わせ計4群を作成し、それぞれの群で、条件(現実―理想)と魅力選択のクロス表作成後、χ2検定を実施した。すべての群内において有意な差が検出されたが、すべてにおいて現実場面では内面重視、理想場面では外見重視の結果となった。条件設定の変更で魅力の重視に変化が起きていることから、条件設定で異なる「拒否不安」の有無が魅力選択に対して影響を及ぼしていることが明らかになった。これは、仮説3の前半部分を支持する結果となった。また、他者行動敏感能力高群と低群において現実条件では内面重視であり、理想条件では外見重視という有意な同様の偏りが見られた。これより、仮説3後半の「他者行動敏感能力の高群は、理想場面においては、現実場面に比べ外見重視が有意に多くなるであろう。」は支持
となった。しかし、低群高群で魅力選択が同様だったことから、他者行動敏感能力の高さがこのような結果を生み出したとは言い切れない可能性が残った。
次に、拒否不安尺度得点の高低が魅力選択に及ぼす影響を確認した。拒否不安低群の内面重視と拒否不安高群の外見重視が有意に多かった。この結果より仮説4の前半の「拒否不安の高群と低群において魅力選択は異なるだろう。」は、支持されたと言えよう。また、他者行動敏感高群における拒否不安高低のクロス表でχ2検定に有意な差がみられなかったので、仮説4の後半部の「他者行動敏感能力の高群内での、拒否不安の低群は、拒否不安高群に比べ外見重視が有意に多くなるであろう」は不支持となった。以下、詳細に考察を加えていく。
SM下位2因子の高低群が現実場面において魅力選択に及ぼす影響を検討したがχ2検定の結果、数値に偏りはなかった。次に、SM下位2因子の高低群それぞれに拒否不安尺度得点の高低を掛け合わせた4群それぞれで同じく現実魅力条件での魅力選択を検討した。自己呈示変容能力低群、他者行動敏感能力低群においてのみ魅力選択に有意な差があった。RSM各下位因子の低群内において拒否不安高群は内面を重視し、拒否不安低群は内面を重視していた。対してRSM各因子の高群においては有意な差が見られなかった。また、拒否不安の高低と魅力選択において有意差があり、拒否不安高群は内面を重視し、拒否不安低群は外見を重視していた。そしてこの結果は、上記のRSM各因子の低群での有意差と同様のものであった。つまり、低群から高群への差はSM能力値の高さであり、この能力値の高さが魅力選択の有意な差をなくしたと解釈ができる。RSM各因子の低群にもともと存在した有意な差は拒否不安低群と内面重視、拒否不安高群と外見重視の関係であった。この結果は、RSM各因子高群になりSM能力値が高くなることで拒否不安低群においては有意に多かった内面重視の度数が、外見重視が増加することで偏りが消えて、有意な差がなくなったと解釈ができる。つまり、拒否不安低群では、SM能力値が高くなることで外見重視が増したと解釈できる。また、拒否不安高群においては有意に多かった外見重視の度数が、内面重視が増加することで偏りがなくなり、そのため有意な差がなくなったと解釈できる。つまり、拒否不安高群では、SM能力値が高くなることで内面重視が増したと解釈ができる。これらの解釈をSnyderら(1985)にあてはめて考えてみる。拒否不安低群での結果は、SM能力値の高まりは、外見を重視しやすいというSnyderら(1985)の研究を支持する結果となった。しかし、拒否不安高群に関してはSnyderら(1985)の結果と異なり、RSM能力値の高まりは、内面重視を増加させる傾向にあることが明らかになった。つまり、SM能力と魅力選択の関係は、拒否不安の低い者たちにはSnyderら(1985)研究同様、RSM値高群は外見重視であり、RSM低群は内面重視であることになる。しかし、拒否不安高群の者には、逆の魅力選択を行うものが多かった。次に、現実場面において、拒否不安高群は外見を重視し、拒否不安低群が内面を重視する結果である有意差が、理想場面においては差がなくなっている。つまり、拒否不安高群の外見重視と拒否不安低群の内面重視の傾向が理想場面において、弱まったことになる。これは、拒否不安を想定しない理想場面において、拒否不安高群の者たちは、もともと外見重視であったが、現実条件から理想条件への変更により、拒否不安が軽減され、それと共に内面重視が増加し、その結果偏りが見られなくなったという解釈ができる。また、松井・山本(1985)が述べた、拒否不安が高い者は外見的魅力の低い他者を選択する、との説は支持されず、本研究では拒否不安の高さが魅力選択において外見重視と結びついていた。これについて考察する。拒否不安は、自己評価の低さを予測しうる。自己評価が低いために、自尊心も持てなくなってしまう。この自尊心を回復するためには、第一印象で周囲のひとが判断しやすい外見的資源の魅力的である人が必要になってくるだろう。なぜなら、そのような人が側に居てくれることで、周囲からの羨望や賞賛を獲得できるからである。周囲からの羨望や賞賛は、自身の自尊心の回復につながりうると考えられる。よってこのプロセスを構築するために、拒否不安の高さは、外見重視と関連性をみせたのではないかと予測できる。
本研究の最後に重回帰分析による因果モデルの構築を行った。その結果、拒否不安がRSM下位2因子に有意な正の影響を及ぼし、自己呈示変容能力は現実場面において外見重視に対し、また他者行動敏感能力は理想場面において外見重視に対し有意な正の影響力を持っていた。SM能力と魅力の選択に関して考察していく。Snyderら(1985)によれば、社会的状況で他者に映し出す自己のイメージに特に注意を向けているHSMは、彼らが将来関与するであろう異性によって、他者に伝えられるイメージに特に注意を向けるために、外見を重視した選択をしたと述べている。一方LSMは、異性の性格の情報に特に重視したカテゴリー分類をするであろうとし、LSMは自らの印象操作には無頓着であるために、異性選択の場においても他者の外見に重視した選択は行わず、LSMはより簡単に自分の価値観などを表現しやすい他者を選ぶだろう、とした。しかし本分析では、SM能力を高低に分けるのではなく、下位因子に分け詳細な分析を試みた。自己呈示変容能力が現実場面において外見重視を選択する理由について考えてみたい。自己呈示変容能力は、自己呈示をどれほど意図的に相手に自分が与えたい印象をうまく与えられるかという能力を指し、あくまで印象操作に重点を置いたものである。印象操作の探求は、実際に近くに存在する友人や異性に対してもその影響を及ぼし、彼らから受け取る印象に対しても敏感にならざるをえなくなるだろう。このような過程を辿ることで最も人が見て印象を受けすい顔、つまり外見からの印象を重視することになると予想される。この見解は、Snyderら(1985)とほぼ同様の見解となった。他者が与える印象に敏感になる理由として、他者からの自分に対して向く否定的な評価を避けたいという動機が働いている。つまり、他者が周りに存在しているという状況がこのような動機を引き起こす。このような周りに人が存在する状況、そして他者との相互作用が予期される状況、つまり今回本研究では現実状況において有意な影響を及ぼしていたと考えられる。対して、他者行動敏感能力は、自己呈示を行う以前、またはその際に他者の行動や態度、その場の雰囲気、状況等を観察する能力を指す。空気を読む力に長けるため、諸井(1997)が述べるように、周囲の環境から様々な情報を集める。そのために周囲に対しての配慮に長けている。この能力に長けるということは現実状況では、空気が読めるためにその他者に対して配慮が生起し、外見を重視するばかりでなく、外見が魅力的でない人にも選択をしていた可能性がある。よって、他者行動敏感能力の高さは現実条件において、魅力選択に有意な差を検出しなかったことにつながる。しかし、理想状況では人の目もなくなり自分の好みを重視して選べるようになる。つまり、理想場面では、第一印象で魅力につながりやすい外見的な資源に重視をおいた選択をしたのではないか、と考えられる。よって、他者行動敏感能力は理想状況で外見の重視に有意な影響を及ぼしていたと考えられる。このように、RSM下位因子においても能力の高さが魅力選択につながり得ると考えられる。先の結果と重回帰分析の結果を踏まえた考察から、Snyderら(1985)とは同様の結果は検出されなかったが、SM能力と魅力の選択には弱い関連があることが明らかになった。
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