本研究では、以下のことが明らかになった。1つ目に、SM能力の高さと拒否不安の高さには関連があることである。つまり、拒否不安の高さは人間関係に関する努力を喚起し、その結果、自己呈示変容能力や他者行動敏感能力といったSM能力の向上につながることになりうるだろう。拒否されることへの恐れやすさは、対人不安などに陥りやすい特徴を持つが、その反面、人の気持ちを読むといった共感性などを育くむきっかけにもなりえるので、子供に対する教育の際には、以上の点に注意することで社会的スキルの育成に効果的であると考える。2つ目に、特性的に拒否不安の高い者は、魅力選択の際に外見を重視していた。この結果は今までの先行研究との結果とは異なるものとなった。この結果からは、自尊心の欠如が、常に内面、例えば人の優しさ等ばかりに目が向くのではなく、自身の周囲に対して外見的魅力を整えるという性質があることを示唆したといえるだろう。
3つ目に、SM下位因子と魅力選択の関連性である。今回本実験では、Snyderら(1985)と同様の結果は得られなかった。しかし、拒否不安の低群においては、Snyderら(1985)と同様の傾向が示されたこと、そしてRSM両下位因子能力の高さは外見重視を取りやすいことは確認できた。また、自己呈示変容能力は現実場面において外見に影響し、他者行動敏感能力は理想場面において外見に影響していた。この結果は、恋愛場面において有利に進める上で効果的に働く知識となりうる。また、魅力選択の際には、現実と理想場面にはズレがあることを認識することで初期の恋愛関係とその後の関係の進め方を有効的に把握する手助けにもなりうると考えている。
今後の課題としては、魅力選択の際に現実さを増す必要性があったことが挙げられる。今回、他者選択の際には2つの説明文を用意し、被験者に想起させたが、あくまで外見の美醜や内面の良さはこちらの条件設定で一方的に決定した。特に、外見の美しさは、顔写真を利用して現実味を帯びさせる必要があったのかもしれない。また、内面の想起も「社交性がある」などといった言葉だけでは、内面の良さが伝わりにくかったのかもしれない。以上のことより、より現実味を持たせることが魅力選択の際には重要であることから、再度条件設定をし、研究を再度行う必要性はあるだろう。また、現実条件と理想条件の設定の差があいまいになりえていた可能性もある。こちらも、説明文でのみの条件設定であったため、現実味が薄くなってしまった可能性がある。
RSM能力の分類にも問題が残った。今回、下位因子を2分類し、その高低を組み合わせて交互作用を期待していたが、ほぼすべてが同様の結果になってしまっていた。堀毛ら(1993)も述べるとおり、SM尺度を多次元に分類しすぎると面白みが欠けてくるという欠点がある。本研究においてもRSM尺度を自己呈示変容能力と他者行動敏感能力に分類し解釈を試みてきたが、必ずしも2因子分類が良いとは限らないことを示唆しているとも解釈ができる。また、林・津村・大橋(1977)らによると相貌特徴は性格特性と関連性を有しているとの報告をしている。林ら(1977)によると「華奢な感じの」特徴は「消極的」な性格をもっているとした。今回の相貌特徴には、「モデルのような」、「きれい」、「かわいい」といった記述があった。林ら(1977)から考えると、このような、外見を想起する記述文が内面を想起させてしまっている可能性を捨てきれない。このような根拠から、今後研究する際には、魅力の選択をさせた後に理由を合わせて聞くことにより、どこに魅力を感じているかが更に深めることができると考える。