本研究の目的は、以下の2つであった。1つめは、攻撃的でもなく言葉が自発的に出ているにも関わらず、遊びへの仲間入り場面において上手く仲間入りできない幼児に着目し、このような幼児の特徴と仲間入り方略について再検討することだった。2つめは、ひとり遊びから仲間との遊びへと変容する時期における保育者のかかわりの重要性について検討することであった。先行研究から、幼児期の仲間入りには言語的要素が大切であることが言われてきたが、身体的な要素が必要であることも示唆されていた。そのため、本研究では言語的な要素と身体的な要素の両面から、幼児期の遊びの仲間入りを捉えた。調査方法は参与観察法を用いて、午前の自由遊び時間に観察を行った。対象児は4歳(年中)の女児Aであった。分析に際して、鈴木(1985)を参考に遊び相手との関係という観点から、Aと観察者、Aと観察者+α(他児)、Aと他児の3つの場面に分け、先行研究をもとに視線・接近・身体接触・模倣・言語の5つの観点を用いた。

 結果、言葉が出ていても視線が一致せず、誰に向けたものであるかわからない場合には、受け取り手がいないことがあったり、接近していても相手への関心が向かなければ、相互関係には至らなかったりすることから、幼児が仲間入りする際には言語的な要素や身体的な要素が1つのみではなく、両方が組み合わされていることが考えられた。また、観察者との発話をきっかけに動作の模倣を通して遊びのイメージがふくらんでいくことが多かった。このことから遊び開始には言葉を必要とするが、遊びの輪を広げるためには言葉以上に動作が関係している可能性が示唆された。そして、言語的な要素や身体的な要素とは別に"遊びのイメージの共有"という要素も仲間遊びに入っていくために必要であると考えられた。

 保育者の役割については、観察者のかかわりが「共感的なかかわり」が多く、Aの遊びの提起を受けて遊びを広げていくという役割が多く行われていた。このことから、幼児の遊びの世界への共感が大切であることが示唆された。観察者を介して、幼児同士のつながりが増えたことから、保育者の存在が幼児の関心を惹きつけ、幼児同士の関係を作りだすきっかけになることでひとり遊びから仲間遊びへの移行を支えるということが示唆された。