1.社会的背景

1-1.幼児期における遊び

 文部科学省(2013)では、「幼児は、遊びの中で主体的に対象にかかわり、自己を表出する。そこから、外の世界に対する好奇心が育まれ、探索し、知識を蓄えるための基礎が形成される。また、ものや人とのかかわりにおける自己表出を通して、幼児の発達にとって最も重要な自我が芽生えるとともに、人とかかわる力や他人の存在に気付くなど、自己を取り巻く社会への感覚を養っている。」と幼児期における遊びの重要性が述べられている。これを踏まえ、平成元年改訂版以降の幼稚園教育要領においては、安定した情緒の下で幼児の主体的な活動を促すことが幼児期にふさわしい生活の実現につながるものととらえられ、保育は幼児の自発的活動としての遊びを中心とするものとしている。幼稚園教育要領解説書によると、幼稚園における遊びは、「心身の調和の取れた発達の基礎を培う重要な学習である。幼児にとって、自主的な活動であり、遊びを通して人とかかわる力、思考力、感性や表現する力がはぐくまれる。遊びを中心とした教育を実践することが大切であり、一人一人の幼児が教師の援助の下で主体性を発揮して活動を展開していく」と述べられている。このように、幼児の遊びの重要性が認識され、教育現場においても遊びが積極的に取り入れられている。中でも、幼児教育・保育の場における集団体験、他児とのかかわりの体験の不足が指摘され(川村, 2001)、保護者からも注目を集めている。森上・今井(1992)は、設定された大集団のなかでは友達への共感性や感受性は育たず、幼児自身による遊びを通しての友達とのかかわりでこそ、幼児は自分の世界を発見し、それが人間関係の育ちの第一歩であると述べている。このことから、遊びの中でも特に「友だちとかかわる遊び」が注目されていると言える。

1-2.生活環境の変化による遊びの現状

 しかし、『近年、テレビゲームのめまぐるしい普及率、遊び場の減少などにより、児童の「遊び」そのものが、大きく変化していると言われている。児童の遊びの実態調査では、「男女ともにテレビゲーム遊びが一番多く、一人でできる遊びが増え、遊ぶ集団の規模が小さくなっている。」「現代の児童の遊びは父母や祖父母の世代が行った遊びとは異なり、父母及び祖父母の時代にはなかったテレビゲームなどの受動的で一人でもできるような遊びが多く存在している。」などの報告がされている』(遠藤・星山・安田・斎藤, 2007)。文部科学省(2013)でも、「少子化、核家族化が進行し、子どもどうしが集団で遊びに熱中し、時には葛藤しながら、互いに影響し合って活動する機会が減少するなど、様々な体験の機会が失われている。また、都市化や情報化の進展によって、子どもの生活空間の中に自然や広場などといった遊び場が少なくなる一方で、テレビゲームやインターネット等の室内の遊びが増えるなど、偏った体験を余儀なくされている。」という傾向があることを報告している。これまでの児童の遊びは、かくれんぼや鬼ごっこ、石けりなどのように、1)何人かの友と、2)屋外で、3)体を動かしながら、4)自分たちでルールを作りながら遊ぶ、といったことを基本としていた。しかし、現代の児童の遊びは、テレビやマンガなど、全体として屋内の孤立型へと移行してきており、特にテレビゲームは多くの場合、1)ひとりきりで、2)屋内で、3)じっとしたまま、と遊びの特徴を示している(深谷・深谷, 1989)。このような遊びの変容を問題視する理由として遠藤・星山・安田・斎藤(2007)は、「遊ぶという直接体験の中で仲間関係を築いたり、社会性を身に付けたりするといった遊びの本質や、友達や兄弟と競争・対立や共同することによって、感情をコントロールする力を身に付けたり、他人への共感性を育ててゆくことができるということが大切だと考えられているからである。」と述べている。
 窪・井狩・野田(2003)は、園児がどのような遊びをしているか、親と保育者へのアンケート調査を行った。その結果、平日は外遊びや運動遊びで過ごす時間は少なかった。休日になると外遊びの時間は増えるが、パソコン・TV・VTRによる遊び時間も増えていることがわかった(表1・表2)。これは、園児の好む「外遊びや運動遊び」「友達遊び」が充分に確保されているとはいいがたいと、まとめている。

表1
表2

幼児生活時間調査(2013)では、5歳~6歳児では4割前後が自分で携帯ゲーム機を使い、テレビゲーム機も5歳から6歳にかけて自分で使う幼児が大幅に増える、という結果が報告されている。また、この調査では幼児全体のテレビ・携帯ゲームの1日の行為者率は、月曜10%、日曜16%と日曜の方が高く、年齢が上がるほど行為者率も高くなり、6歳児は月曜20%、日曜33%に達することが報告された(図1)。

図1
 同調査では各メディアの接触割合もみている。各メディアの割合をみると、「テレビ」の占める割合は0歳児は86%、1歳児では73%と高めだが、2歳児以上は6割台と、割合が少なくなる。一方、「録画番組・ビデオ」は1歳児から5歳児まで2割以上を占め、「映像メディア」全体のおよそ4分の1程度を占める。「テレビ・携帯ゲーム」の割合は高年齢で上がり、6歳児で15%を占めている、ということが報告されている(図2)。
 この結果から、現状として幼い時期からテレビやゲームに触れる機会が多くなっており、その分「遊び」の占める時間が少なくなっていることが考えられる。
図2