本研究の目的は攻撃的でもなく言葉が自発的に出ているにも関わらず、遊びへの仲間入り場面において上手く仲間入りできない幼児に着目し、このような幼児の特徴と仲間入り方略について再検討することであった。さらに、ひとり遊びから仲間との遊びへと変容する時期における保育者のかかわりの重要性について検討することであった。Aの他者との遊び場面での関わり開始について、鈴木(1985)を参考に遊び相手との関係という観点から、Aと観察者、Aと観察者+α(他児)、Aと他児の3つの場面に分けて分析する。分析の視点については、先行研究をもとに視線・接近・身体接触・模倣・言語の5つの観点を用いた。途中でエピソードを入れながら、Aの行動の変化を見ていく。全てのエピソードは観察日ごとにまとめ、エピソード番号をつけた(資料参照)。エピソード記述に際して、Aの発言は「」、観察者の発言は<>、他児の発言は『』、エピソードの番号を[1]というように表記する。また、1つのエピソード中に同時に観察された要素はそれぞれa,bと表記した。例)[1]「○○」と言葉(1-a)、顔を見ながら答えた。視線(1-b)
1.Aと観察者
Aと観察者のかかわりの場面を大きく4つに分け、それぞれ【観察者との関係を作る時期】・【観察者が遊び相手になる時期】・【観察者が他児と遊んでいることが気になる時期】・【観察者から離れる時期】とした。
第T期(10/22〜11/5;5回) 【観察者との関係を作る時期】
他児が観察者に自分から話しかけたり、興味を示して近寄ってくるのに比べ、Aから観察者に飛びついてくるようなことはなかったが、観察者が近付くと観察者に対して「先生も一緒に作るー?」(1-a)と話しかけてくる様子が見られた。観察者が話しかけると「ふーん」といった反応(9-b)はあるが、言葉での反応は乏しく「うん」とうなずくだけであったり、応答したとしても内容がずれていることがあった。例えば(9-a)では、<何してるの?>という問いに対して「お昼からお化け屋敷やるんだけど...」と反応している。これは、この時期Aが自己の世界で遊ぶことに夢中であり、一緒に遊ぶ「相手」を必要としていなかったためではないかと考えられる。自己の世界で遊ぶことに満足している様子は他児とのかかわりの中でも見られたが、この点については"Aと他児"場面の第T期【他児の発信に反応出来ない時期】で後述する。
この時期の観察者との遊び場面におけるAの特徴は、@他者に対する意識を「後でちょっと行ってみよか」(7-a)「きれいな紙ー」(27-a)などの言葉で発することは出来るが、A話しかける対象に視線が向かないなど、視線が伴っていないことが多く、B誰に向けて発言した言葉なのかが明確ではなく、相手も応えにくいものであった。同様のことはAと他児の関係の中でも見受けられた。エピソード[29]では完成した作品を「おもしろいよー。」という言葉とともに(29-a)見せようとしているが、視線が特定の誰かに向いていたわけではなかったため、誰も反応しなかった。
観察者の存在を意識し始めると、視線が観察者を向くようになり、発せられた言葉が観察者に向けたものであることが伝わるようになった。しかし観察者からの問いかけに反応する場面では、言葉での反応に対して動作だけでの反応が見られた。(例えば、エピソード[2]、[10]、[12])また、観察者からの言葉かけに応じる時の表情も乏しい様子が見られた。例えば、エピソード[12]では観察者が<みんなご飯の準備してるよ>と声をかけたが、言葉では反応せず、周りの様子を見て、椅子を持って移動し始めた。観察者の声かけがAの行動のきっかけになっていると考えられるが、観察者に対するAの反応や表情は乏しかった。
以下にAと観察者がかかわり始めた場面で、観察者からの問いかけに対するAの反応についてのエピソードをまとめた。
・Aが折り紙で魔法のステッキを作っていた。それが出来たため、「魔法のステッキー」とみんなに見せてまわっていた。[31]Aの発言に<魔法のステッキ?>と反応するとAは少し嬉しそうに観察者の方を見てはにかんだように笑う(31-a;視線)。続けて[32]<ここが金だからステッキか>と返すと「そうそう」(32-a;言葉)と応えるが視線は次の折り紙を見ていた(32-b;視線×)。
観察者に対するAの反応から以下のことが示唆された。Aは観察者の存在は意識しているが、観察者を一緒に遊ぶ相手として明確には意識していない様子がうかがえる。
また、観察者からの言葉かけにどう応答していいか、かかわり方が分かっていない様子であった。エピソード[2]と[4]では同じように観察者が要求したものを渡すという場面であったが、観察者の問いかけにエピソード[2]では、言葉を発さず、身体動作だけで反応し、エピソード[4]では言葉を添えて反応した。このように言葉かけに対してAがうまく応答出来る場合と出来ない場合と反応にばらつきがある。エピソード[10]では控えめながら観察者に興味を持って行動に出ていると考えられるが、「マットに転がる」という身体動作が観察者を遊びに誘っているかどうか判断が難しく、Aの意図は動作からは不明瞭であった。エピソード[27]では、「遊びへの誘い」という意図までは不明瞭であったが、Aが持っている世界を観察者にも発信し始めていると考えられる。エピソード[31]では、Aの遊びの世界に観察者が興味を持ち、確認する反応をしたため、笑顔がみられたのではないだろうか。しかし、ここでは観察者は「遊び相手」と認識されず、その後の問いかけから遊びへ発展することはなかったと考えられる。
次にAにとって観察者が「遊び相手」になるきっかけになったと考えられるエピソード(エピソード[38][39][40])を取り上げる。
この遊びの流れは、Aが観察者と目を合わせた(38-a)後、観察者にわかるように顔を手で隠し、隠れる振りをするという動作を通して"遊びの誘い"をしたところから始まった。この誘いを観察者がAのイメージに沿って受け取り、近づかずにその場で背を向けるという動作をとったため、遊びが開始されたエピソードといえる。最後は観察者が追いかける役、園児たちが追いかけられる役になり、遊びが終わった。
第T期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table1)。

視線:観察者と話しているときは観察者に向いているが、自分から観察者や他児へと言葉かけをする(発信する)際に方向があっていないことが多かった。接近:Aからではなく、観察者が自然と側へ寄っていく形であった。身体接触:この時期は見られなかった。まだ、距離が近くなかったことが原因と考えられる。模倣:あまり見られなかった。観察者からイメージを持って、遊びに誘うことがなかったためと考える。言葉:Aからの発信は言葉が中心となっている。観察者の発信には基本的に言葉で返していた。
第U期(11/8~11/20;4回)【観察者が遊び相手になる時期】
第U期では、Aが観察者を気にする行動が目立った。例えば、エピソード[44]で観察者が遠くにいても呼びかけたり、エピソード[78]ではNが観察者を呼んだことをきっかけに遊びの約束をした、というようなやりとりがあり、Aと観察者の関係に連続性が出てきた。この時期の観察者との遊び場面におけるAの特徴は、@観察者への言葉かけが増えたこと、A接近の要求や遊びへの誘いが増え、一緒に遊びたいという気持ちを表すことが多くなったことである。例えば@について、エピソード[52]では観察者に気付いたAから「今日髪型違ーう。」(52-a)と反応し、観察者が応えた後続けて「今日はお父さんに連れて来てもらったの。」と顔を観察者に向けて教えてくれた(52-b)。このように、Aから明確に観察者に向けたとわかる言葉が増えたことが他のエピソードでもうかがえる。Aについては具体的なエピソードを取り上げ後述していく。また、B観察者との会話や関係が続くようになってきた。これはAの中で観察者の存在が"遊び相手"として認識されたためと考える。観察者も意図的にAのイメージに沿った行動をこころがけた。
以下に遊びの中でAと観察者のやりとりが続いたエピソードをいくつか取り上げる。
・[57]お弁当屋さんを開いている様子のA。「お弁当屋さんでーす。何か要りますか?」と視線を下にしたまま発信した。他児が誰も反応しないようなので<なにが売ってるの?>と聞くと、「ん?お弁当」(57-a;言葉)と答える。<じゃあ、お弁当ください。>と言うと「はい。わかりました」とすぐに反応(57-b;言葉)し、手を動かし始めた。[58]作り終えるとおにぎりに見立てたものを観察者に渡した(58-a;動作)。「これはおいもが食べる草です。食べてみてください。」(58-b;言葉)<ありがとう。いただきまーす。>と言って食べる真似をすると「おいしくありませんよ。」と付け加えた(58-c;言葉)。[59]それを聞いた観察者が<えー。>と驚き、不満を表すとAは嬉しそうに声を出して笑った(59-a;笑い)。
・[68]Aは女児数名と園庭で石や葉っぱを拾っていた。Aが観察者に気付き、「あっ」と(68-a;言葉)指をさした(68-b;動作)。<おはよう、何してるの?>と聞くと「石拾ってるの」『葉っぱやどんぐり拾ってるの』と口々に答えた。[69]女児Nが『先生前、体育館におったよな?』と聞くので<おったよー>と答えるとその会話を聞いていたAが「なんでおったん?」(69-a;言葉)と観察者の方を向いて質問してきた。<みんなが運動するののお手伝いにいったんだよ。>とAの顔を見ながら答えた。
上記のエピソードが示すように観察者との言葉のやりとりによる関係が続くようになってきた。エピソード[46]では、観察者がAの方を向いて話しかけるとAも同様に観察者の顔を見て話した。このような行動の模倣からは観察者がAにとっての行動のモデルとなっている可能性が示唆された。エピソード[57]ではお弁当屋さんごっこに観察者がお客さんとして参加すると、Aは嬉しそうに続けて言葉をかけてきた(58-b,58-c)。この時も観察者はAに視線を向けて話しかけ、Aも観察者を見ながら言葉を発していた。徐々に発話場面で観察者に対してはAの視線が向くようになってきていることがうかがわれる。エピソード[69]ではAが他児と観察者の会話もきちんと聞いていたことがわかる。Aの視野が広がり、自分の周りの様子を気にし始めている様子がうかがえる。
次にAが観察者を遊びに誘うエピソードとして[60]~[62]を詳細にみていく。Aが観察者に近付いて「けいどろ」に誘い、観察者が断ると今度は「違うことして遊ぼ」と提案し、そこから一緒に行動をし、遊んでいる場面である。
2013/11/13 エピソード[60]~[62] *Aとのお散歩*
このエピソードの中では「違うことして遊ぼっか。」や「見てて。」「探検しよう!」などAから観察者に向けて提案の言葉を発すること(発信)が多い。観察者が反応すると内容をしっかり受信して(61-a)、次の提案をしている。ここで興味深いのは、Aがけいどろに戻らず観察者と遊ぶことを選んだことである。Aが同じ警察であるS先生を捕まえていたことから、けいどろのルールを理解していなかった可能性も考えられるが、この場では同年齢の集団で遊ぶよりも"観察者と一緒"に遊ぶことに興味があったと考えられる。Aにとって観察者の存在意義が大きくなり、観察者と一緒に遊ぶ楽しさを実感していることがこのエピソードから推察できる。第T期のAの様子から一人で遊ぶことも選択肢として考えられるが、そうではなく観察者を誘って、ずっと一緒に行動することを要求した点でAの観察者への意識が強くなったことが感じられる。一人遊びの楽しさのみならず、誰かと遊ぶ楽しさも感じ始めている時期であり、また、「見てて。」という言葉に象徴されるように自分以外の人に自分に興味を持ってほしいということも表出し始めている時期と考えられる。
もう1つ、Aが観察者を遊びに誘い観察者の参加によって、遊びの内容と規模が変化していった特徴的なエピソードとして"牢屋ごっこ"のエピソードをみていく。園児だけのお家ごっこ(遊び)から、観察者がAらの動作によって遊びに誘われ、牢屋ごっこへと遊びが変化していく様子を詳細に記述する。
2013/11/19 エピソード[70]~[77]*牢屋ごっこ*
まず誘いの部分では、Aから叩いて攻撃をする(70-b)という接触を伴った遊びへの誘いの動作があった。その攻撃は一時的なものではなく、観察者がやられる振りをするとどんどん強まっていった。ここで観察者がやる―やられる関係のイメージを理解し、やられ役に転じたことでAは自分の世界が受け入れられたと感じたのではないだろうか。そして、観察者を悪者にして牢屋に閉じ込めるというAの遊びの世界が広がっていったと考えられる(71-b)。この流れでは、遊びの内容と供に遊びの参加人数も変化したが、観察者を追いかけながら家から牢屋へと場所が移動したため、「入れて」という声かけなしに観察者を追いかけながら近くにいた女児も参加することが出来たのではないかと考える。遊びが開始されてから、Aから他児への呼びかけが中心となっていた。例えば、「先生は悪いことをしたので、牢屋から出られません。」という設定や「私たちは警察。」という設定、「もうずっと出られません。」という観察者に対するからかいなど、全てAから始めたものであった。さらに、Aが視線に気をつけていたというわけではないのに、いつもよりもスムーズにAの呼びかけが他児にも受け入れられていた。この要因としてまず場の環境が考えられる。牢屋となった木の遊具の下は狭い空間だったので顔を見て発言する能力がなくても、側に受け手がいるという環境だった。この環境のため、幼児同士のやりとりが途切れずに行われやすかったと考えられる。もう1つの要因として、幼児たちの今後の人間関係に支障のない観察者を悪者にするという設定はAと他児の間で共有しやすいものであり、観察者以外全員が味方の集団であるということが幼児同士の結束力を高めたのではないかと考える。また「悪者を閉じ込める」という大きなテーマが共有されていたため、発言や行動もそのテーマに沿うものであり、提案(発信)や起こっている事の理解(受信)がしやすかったのではないかと考える。牢屋の中で観察者をからかうときも、始めは個人個人から観察者へという1対1での関係だったがが、「悪者をからかう」という目的のもといつの間にか2,3人で一緒(=仲間)という意識を持ってかかわってきていたように感じた。この感覚が仲間と遊んでいる感覚となり、一人遊びの他の遊び方をAが学習するきっかけとなったのではないだろうか。
しかし、この環境でもAが他児の呼びかけに応じることは十分ではなかった。(74-a)では、Aは他児の言葉には反応できていない。この狭い空間の中、聞こえなかったということは考えにくいことから、聞こえてはいるが、自分のやりたいこととの違いを感じ、すぐに反応出来なかった可能性が考えられる。またAが他児の名前を呼び捨てにしている(75-a)のを初めて聞いた。他児の様子からも普段呼び捨てにされることはあまりないと考えられる。これはAがまだ他児と遊ぶことに慣れていないために起こった現象とも捉えることができる。
第U期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table2)。

視線:観察者とすこしずつ目が合うようになってきた。観察者を気にする素振りも増えてきた。接近:Aから近づいてくることが多くなった。心理的な距離も近付いている。身体接触:叩いたり、手を掴もうとしたりなど、直接触れる機会が前と比べて多くなった。模倣:この時期でも模倣はあまり見られず、遊びのきっかけになることはなかった。言葉:Aからの呼びかけも観察者に対する反応も言葉で行う数が増えてきた。観察者をよく誘うようになった。
第V期(11/28~12/6;2回)【観察者が他児と遊んでいることも気になる時期】
この時期のAは観察者に対して視線を伴った発話をしており、1対1の関係はよくつながるようになった。少しずつAが遊ぶときの視野が広がってきており、他児のアピールや呼びかけに反応出来ている回数は前に比べ増えてきている。Aと観察者の遊ぶ時間も増えたが、観察者と他児が遊ぶ時間も増えた。その際にAが近くにいたり、様子を見たりしている場面があった。エピソード[86]はAはお面作りの途中だが、観察者と女児Cとのやりとりを聞いてくすくす笑っている。エピソード[95]では他児が観察者に呼びかけたが、それにAが応えている。この様子から観察者が他児とかかわっていることにも興味を持ち始めていることがわかる。Aと観察者と他児での遊び場面はエピソードが重複するため、Aと観察者+α(他児)の場面で観察者とのやりとりも含めて後述する。Aは観察者を見つけると両日ともAから近づいてきた(エピソード[83]は11/28の観察、エピソード[92]は12/6の観察)。
・[92]観察者を見つけたAは観察者と一度目を合わせ、「今日髪の毛お母さんにやってもらったの。」(92-a;言葉)と言って近づき(92-b;接近)、観察者に背を向けハーフアップを見せてくれた。[93]<ん?>と聞き返すとAは観察者の方を向いて「あっ。おじさんやった」(93-a;言葉)と嬉しそうに観察者を指差した(93-b;動作)。[94]<おじさんじゃないですー。>と言うと、Aはニヤニヤ笑いながら教室に入っていった(94-a;笑い)。
上記のエピソードの様子から、観察者との関係はだいぶ安定してきたように感じる。[83]は観察者から何かを聞いたわけではないが、劇での自分の役割について、作成中のお面について丁寧に教えてくれた。担任の先生の話より、Aは劇や発表会などの自分を表現する遊びがすごく好きということだった。自分が得意な劇なので、観察者にもアピールしたと考えられる。観察者に言葉をかけるときも最初に観察者を見てから話し始めたり、目が合って観察者の注意が自分に向いていることを理解してから話していた。
以下にこの時期でAが観察者と他児のかかわりに興味を持っている場面をとりあげる。
・[95]男児Qと観察者が机で男児Qの作っている工作について話をしていた。男児Qが『先生ここに賞味期限って書いて』と言ってきた。<ここ?>と確認すると側にいたAが寄ってきて(95-a;接近)、「私もひらがな書ける」と言った(95-b;言葉)。視線は近付いてきた後、紙の方を見ていた(95-c;視線)。※続きは後で述べる。
エピソード[86]では、観察者と他児のやりとりを聞いて、一緒に笑っていた。今までのAは、工作をしている最中はあまり他児のことや周りの様子が気にならないようだったが、今回は工作をしながら、観察者と他児のやりとりにも注目していた。からかう相手が観察者であったことが影響していると考えられる。よく知っている観察者が対象となっていたため、からかわれる内容もわかり、単純に興味もわいたのではないかと考える。エピソード[95]では、別の机にいたにもかかわらず観察者と他児とのやりとりに参加してきている。ここでの「私もひらがな書ける」という発言は一種のアピール表現にもとれることから、観察者にも他児にも向けられていると解釈できる。このように、Aが観察者を介して他児と同じ立場を経験し(86-a)、観察者を含めた複数の他者に対して言葉かけ(95-b)が出来るようになってきた。
第V期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table3)。

視線:観察者と目が合うようになり、観察者とその周辺も気にする素振りが出てきた。接近:第U期と同様、Aから近づいてくることが多かった。身体接触:この時期にはあまりない。模倣:あまりない。言葉:観察者をよく誘うようになった。相手の発言を受けて答えるような場面もある。
第W期(12/11~12/18;3回) 【観察者から離れる時期】
この時期になってくると、観察者に気付いてなんらかの反応を示すことが自然と行われるようになっていた。その日の最初にはAから観察者への働きかけが観察されている(資料参照)。また、第V期までと違いずっと観察者の側にいるのではなく、観察者とは少し離れて他児との遊びを求めている様子がうかがえた。観察データの数も少なくなり、Aが観察者とは別の場所で遊んでいることがわかる。以下に、観察者を気にしながら他児との遊びへと戻っていく場面(エピソード[101]~[104])をとりあげる。
上記のエピソードではAが観察者を発見した際に反応はあるが、その後は自分の遊びにかえっていった[102]。第U期のエピソード[60]とは逆である。エピソード[104]でも、観察者を遊びに誘っているようにも見えるが、第U期のように観察者に寄ってきて誘うことはなく、観察者を気にして視線を残しつつも仲間との遊びへ帰っていった。これは他児と遊ぶことを楽しいと感じているため、もしくは、"一緒に○○で遊んでいる"というイメージがしっかり共有されていたため、途中で抜けることがなくなったと考えられる。
第W期におけるAが観察者と他児とのやりとりに参加する場面としてエピソード[106]をとりあげる。エピソード[106]では、この後Aと女児Fのやりとりに移行していくがこの流れはAと他児の場面で詳しくとりあげる。
Aは工作が好きなので、今回も夢中になってブーツを作っていた。しかし、女児Fが観察者へ自分の作品を見せているのを見て、Fと同じように自分の作品を観察者へアピールして会話に参加してきた。この観察者へのアピールをきっかけに、女児FとAとのやりとりへと移っていく。
第W期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table4)。

視線:安定してきた。観察初めの問題点(視線の方向が呼びかけの方向と合っていない)が目立たなくなっていた。接近:Aの興味が他児へと向いていたため、この時期ではあまり観察者に接近しなかった。身体接触:ない。模倣:あまりない。言葉:言葉での呼びかけや提案が多いが、Aから発する際の相手が変わってきた。話がずれることもなくなった。