2.Aと観察者+α(他児)

 Aと観察者に第3者が加わっている場面を大きく2つに分け、それぞれ【観察者と他児のかかわりに興味を持つ時期】・【観察者を仲介に遊び始める時期】とした。


第T期(10/22~11/28;9回)【観察者と他児のかかわりに興味を持つ時期】

 この時期の観察者とAと他児場面でのAの特徴は、前半は他児と交渉をすることが出来ず、A一人では遊びに入ることが困難であった。

・[16] 写真を撮るため、3人組を作るように指示があった。Aは仲良しの女児Fに近付き、何も言わず手をつないだ(16-a;動作)。 しかし、女児Fが他の2人に取られてしまい、Aが1人になった。拒否される時も何も言い返さなかった(17-a;言葉×)。[18]写真撮影は進んでいき、そのままAはすねてしまった。眉をしかめてちょっとふくれっ面。床に寝そべって頬杖をついた。[19]観察者と目が合ったので<どうしたの?>と聞くと両手で頬をつぶしてムンクのような顔をしてきた(19-a;動作)。しばらくすると床でごろごろし始めた。[20]ごろごろしながら(20-b;動作)、「ペアがいないから写真撮れないのー」「ペアがいなーい」と言い始めた(20-a;言葉)。声は他児にも聞こえる程度の大きさだった。一人男児が気にとめてくれたが、他の子はAに直接的には反応しなかった。[21]観察者が<誰か他の子を探したら?>と提案しても、聞いてはいたが床でごろごろしたままだった(21-a;動作)。最後は先生にペアを作ってもらい、無事に終わった。

 交渉がうまく出来ず、Aが一人取り残されてしまったため、観察者に助けを求めるかと思ったが、不満そうな態度を示すだけだった(19-a)。その場で「ペアがいなーい」と言っているので(20-a)、観察者が助けようと提案しても特に反応を示さなかった(21-a)。困った時でもAからの呼びかけ(20-a)は、誰に対してのものか不明瞭である。助けを要求している意思は伝わるが、Aや他児の年齢を考えると誰に向けているのかが明確でないと反応しにくいのではないかと考える。
 Aが観察者に興味を持ち、観察者と共に他児とかかわった場面としてエピソード[33]~[35]をとりあげる。

・[33]Aは年長児Yとお姫様に変身をして遊んでいた。ちょうどAたちが職員室から出てきたところに観察者が通った。Yはそのまま自分の教室へと走って向かったが、Aはちらっと観察者を見て(33-a;視線)、ゆっくり動き始めた(33-b;動作)。Aが来るのをAとは反対を向いて待っていると、「行こうよ」(33-c;言葉)と観察者の手を掴んでひっぱった(33-d;動作)。[34]一緒に年長組に入ると年長児が観察者とこちょこちょ遊びを始めた。年長児たちはこちょこちょが効かないことを見せあっていて、観察者の方が弱いとわかると観察者にもくすぐり攻撃をしてきたりしていた。人数もどんどん増えてきていた。その様子をAは黙って(口は半開き)見ていた(34-a;視線)。[35]Aがずっと見ているのでAにもこちょこちょをしてみた。Aは少し笑いそうになったが、こらえて「弱くないよー」(35-a;言葉)と年長児の真似をしてみせる。<あれ?Aちゃんも効かないのかー。みんな強いなー。>と言うと、Aも年長児たちも楽しそうに笑っていた(35-c;笑い)。

 エピソード[33]でAは観察者へ一緒に教室に入ることを要求してきた(33-c)。Yの教室に入る勇気がなかったのだろうか。年長組の教室に入ってもいつもより大人しく見えた。慣れない場所に観察者が一緒に入ることで、Aの中で観察者との繋がりが強くなるきっかけになったと考える。 また観察者が一緒に行くことで、慣れない場所へ行く手助けをしたとも考えられる。エピソード[35]では、年長児との遊びをAにも仕掛けると、Aも年長さんの真似をして強がることで"観察者とこちょこちょで勝つ"という遊びを楽しむことが出来ていた。Aは観察者と年長児とのやりとりをじっと見ていたため、遊びの枠組みを理解することが出来、観察者とのこちょこちょ遊びが成立したのではないだろうか。最初は緊張気味だったAもこの時は楽しそうだった偶然ではあるが、集団の中で一緒のテーマで笑うという経験(35-c)は、Aにとって他児と遊ぶ経験になったのではないかと考える。
 11月中頃からは、観察者と他児のかかわりにも興味を持つようになってきた。観察者が他児と遊んでいるところにAも入りそうな場面を2つとりあげる。

・[47]男児HとAと観察者が机の中に入っているおもちゃについて話していると、男児Hが机の上に立って『先生より高いー』と言った。それを見てAも机の上(男児Hの隣)に立ち(47-a;模倣)、「私も高いよー」と言った(47-b;言葉)。[48]<本当だ。2人とも先生より大きくなったね。>と言うと2人で顔を見合わせ、笑った(48-a;笑い)。 ・[54]観察者が教室に入ると、何人かの女児が『おばさんが来たー』と観察者をからかい始めた。口々に『おばさんや』『おばあさん?』『おいもさん』などと言うので<違うよー>と答える。Aは女児たちと同じ机の隅で工作をしていた。Aも少し観察者らの方が気になっている様子でときどきこちらに視線を向けていた(54-a;視線)。2回ほど「おばさん」とその場から声で参加もしてきた(54-b;言葉)。Aの顔は楽しそうに笑っていた(54-c;笑い)。

 上記のエピソードは「観察者と他児」または「観察者とA」という関係が、3人以上の関係にふくらんだエピソードである。エピソード[47]では、Hが観察者に対して発した言葉と動作に反応して、Aも同じ動作をしている(47-a)。模倣によってAと他児の位置が同じになり、2対1で背比べごっこをするという流れが出来あがったと考える。エピソード[54]は完全に遊びに入ったわけではないが、観察者の方を気にして(54-a)、時々言葉による参加を行っていた(54-b)。この言葉による参加も他児の遊びのイメージを模倣したものと捉えることが出来る。他児とかかわる観察者を見て、他児模倣することで、自分の遊びの世界で自分が中心となって遊んでいたAが、他児とイメージを共有するということを体験するきっかけになったのではないだろうか。また、観察者を介してであったため、自然と輪を広げることが出来、「遊びに入る」という意識がなくても楽しみながら他児との交流体験をすることが出来たのではないかと考える。
 第T期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table5)。

Table5

 視線:観察者に向けていることが多いため、比較的に安定していた。接近:観察者と他児が遊んでいる側にAから近づいてくることが徐々に増えた。身体接触:ない。模倣:他児の模倣が時々見られる。言葉:他児の真似をしたり、イメージをふくらませたりする。


第U期(11/28~12/18;5回)【観察者を仲介に遊び始める時期】

 観察者が他児からも遊び相手として認識され、他児からの接近や呼びかけも行われるようになってきた。そのやりとりの近くにAがいた場合、Aと観察者と第3者で遊び関係が作られることがあった。以下に観察者を介してAと他児の交流が深まったエピソードをとりあげる。

・[91]Aからお願いされ、観察者とAが劇で使うための金貨を作っていた。そこへ金貨に興味を示した他児PがAに『私も作る』と言ったがAは反応しない(90-b;無反応)。そこで<Aちゃん、Pちゃんも金貨作るって>と繰り返し女児Pの意志をAに伝えた。すると、「えっ、あー。Pちゃんも作るの?ありがとう」(91-a;言葉)とPちゃんの方を向いて話した(91-b;視線)。
・[112]帰りの時間まで少し余裕があったので、サンタさんからもらったコマで遊ぶことになった。机にはAと男児Qと女児Fが座っていた。男児Qはきれいにコマを回しているが、Aはひもの巻き方で苦戦していた。すると「出来なーい。先生やって。」(112-a;言葉)とコマを渡そうとしてきた。すると男児Ksが『僕出来るよー。』と答えた。AはちらっとQを気にするが(113-a;視線)それ以上は反応しなかった。そこで観察者は<Qくん出来るって。Aちゃん教えてもらったら?>ともう一度繰り返してみた。Ks『ほら。』とAの前で自分のコマにひもを巻いて回してみせた。<Qくん上手いね。こうやってやるんだって>とQのコマを指差してAに向かって言うとAもKsのコマを見た(114-a;視線)。すると、Qが『ここに巻けばいいんだよ。』とAに教え始めた。Aはそれを見てもう一度自分の力で挑戦し始めた。

 これらは観察者がもう一度説明をしたり、代理で他児の意志を伝えたりすることで関係が続いたエピソードと捉えられる。エピソード[91]では、女児Pの意思を同じように繰り返すことでしっかりとAに届け、Aは他児に返事をすることが出来た。エピソード[112]では男児Qの『僕出来るよー。』という発言が単なる観察者へのアピールなのかAに対する返信なのかは不明瞭だが、ここでAも男児Qに注目している(113-a)。そこで観察者が男児Qの真似をするように指差しや声かけをして働きかけると男児Qもそれに応えるかのようにAにやり方を見せていた。最後には男児Qから『ここに巻けばいいんだよ。』という言葉を引き出すことが出来、Aも自分でやってみようという気持ちになったと考えられる。 園児たちだけでは教え合うところまでいけなかったが、観察者が男児Qの行動に具体的な説明を付け足すことで、園児同士のやりとりを導き出すことが出来た。
 Aが意図的に観察者と他児の遊びに参加してきたエピソードとして[116]がある。

・[116]Aが作っていた物が完成した。すると観察者に向かって「見てー、がぶっ」と(116-a;言葉)犬のようなものを持って手に噛みついてきた(116-b;動作)。<これ何ー?>と聞くと「魚!!!」と答えた(117-a;言葉)。そこへ男児Hがやってきて、観察者に向けて『バンバンバン』とブロックで作った銃で攻撃してきた。<うわー、攻撃されたー。>と言うともっと攻撃が強まった。すると、Aも一緒になって持っていた魚で「バンバンバン」(118-a;言葉)と攻撃を始めた(118-b;動作の模倣)。2人とも楽しそうで、2対1の対戦をしているような気分だった。

 エピソード[116]は、他児から観察者への攻撃を真似することで3人での遊びが始まったエピソードである。最初はAから「魚が噛みつく」という攻撃(116-b)を受けていたが、男児Hの行動により、銃による攻撃に変化した。Aがこの時模倣を行ったのは、Aも男児Hも観察者を攻撃するという意味では同じ目的を持っていたためと考えられる。目的が同じだったため、『バンバンバン』という音が印象的な他児の行動を見て、すぐに模倣することが出来たのではないかと考える。
 第U期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table6)。

Table6

 視線:観察者や他児と距離が近いことが多かったため、自然に相手に向けるようになっていた。接近:他児との遊びに入る前に少し寄ってくることがあった。他児とかかわる前の安心のためと考えられる。身体接触:ない。模倣:他児の模倣をして、観察者にかかわる場面がいくつかあった。言葉:他児が遊びに参加した場合、言葉での交流よりも動作によって遊びのイメージが広がることがあった。