2.Aと観察者+α(他児)
Aと観察者に第3者が加わっている場面を大きく2つに分け、それぞれ【観察者と他児のかかわりに興味を持つ時期】・【観察者を仲介に遊び始める時期】とした。
第T期(10/22~11/28;9回)【観察者と他児のかかわりに興味を持つ時期】
この時期の観察者とAと他児場面でのAの特徴は、前半は他児と交渉をすることが出来ず、A一人では遊びに入ることが困難であった。
交渉がうまく出来ず、Aが一人取り残されてしまったため、観察者に助けを求めるかと思ったが、不満そうな態度を示すだけだった(19-a)。その場で「ペアがいなーい」と言っているので(20-a)、観察者が助けようと提案しても特に反応を示さなかった(21-a)。困った時でもAからの呼びかけ(20-a)は、誰に対してのものか不明瞭である。助けを要求している意思は伝わるが、Aや他児の年齢を考えると誰に向けているのかが明確でないと反応しにくいのではないかと考える。
Aが観察者に興味を持ち、観察者と共に他児とかかわった場面としてエピソード[33]~[35]をとりあげる。
エピソード[33]でAは観察者へ一緒に教室に入ることを要求してきた(33-c)。Yの教室に入る勇気がなかったのだろうか。年長組の教室に入ってもいつもより大人しく見えた。慣れない場所に観察者が一緒に入ることで、Aの中で観察者との繋がりが強くなるきっかけになったと考える。 また観察者が一緒に行くことで、慣れない場所へ行く手助けをしたとも考えられる。エピソード[35]では、年長児との遊びをAにも仕掛けると、Aも年長さんの真似をして強がることで"観察者とこちょこちょで勝つ"という遊びを楽しむことが出来ていた。Aは観察者と年長児とのやりとりをじっと見ていたため、遊びの枠組みを理解することが出来、観察者とのこちょこちょ遊びが成立したのではないだろうか。最初は緊張気味だったAもこの時は楽しそうだった偶然ではあるが、集団の中で一緒のテーマで笑うという経験(35-c)は、Aにとって他児と遊ぶ経験になったのではないかと考える。
11月中頃からは、観察者と他児のかかわりにも興味を持つようになってきた。観察者が他児と遊んでいるところにAも入りそうな場面を2つとりあげる。
上記のエピソードは「観察者と他児」または「観察者とA」という関係が、3人以上の関係にふくらんだエピソードである。エピソード[47]では、Hが観察者に対して発した言葉と動作に反応して、Aも同じ動作をしている(47-a)。模倣によってAと他児の位置が同じになり、2対1で背比べごっこをするという流れが出来あがったと考える。エピソード[54]は完全に遊びに入ったわけではないが、観察者の方を気にして(54-a)、時々言葉による参加を行っていた(54-b)。この言葉による参加も他児の遊びのイメージを模倣したものと捉えることが出来る。他児とかかわる観察者を見て、他児模倣することで、自分の遊びの世界で自分が中心となって遊んでいたAが、他児とイメージを共有するということを体験するきっかけになったのではないだろうか。また、観察者を介してであったため、自然と輪を広げることが出来、「遊びに入る」という意識がなくても楽しみながら他児との交流体験をすることが出来たのではないかと考える。
第T期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table5)。

視線:観察者に向けていることが多いため、比較的に安定していた。接近:観察者と他児が遊んでいる側にAから近づいてくることが徐々に増えた。身体接触:ない。模倣:他児の模倣が時々見られる。言葉:他児の真似をしたり、イメージをふくらませたりする。
第U期(11/28~12/18;5回)【観察者を仲介に遊び始める時期】
観察者が他児からも遊び相手として認識され、他児からの接近や呼びかけも行われるようになってきた。そのやりとりの近くにAがいた場合、Aと観察者と第3者で遊び関係が作られることがあった。以下に観察者を介してAと他児の交流が深まったエピソードをとりあげる。
・[112]帰りの時間まで少し余裕があったので、サンタさんからもらったコマで遊ぶことになった。机にはAと男児Qと女児Fが座っていた。男児Qはきれいにコマを回しているが、Aはひもの巻き方で苦戦していた。すると「出来なーい。先生やって。」(112-a;言葉)とコマを渡そうとしてきた。すると男児Ksが『僕出来るよー。』と答えた。AはちらっとQを気にするが(113-a;視線)それ以上は反応しなかった。そこで観察者は<Qくん出来るって。Aちゃん教えてもらったら?>ともう一度繰り返してみた。Ks『ほら。』とAの前で自分のコマにひもを巻いて回してみせた。<Qくん上手いね。こうやってやるんだって>とQのコマを指差してAに向かって言うとAもKsのコマを見た(114-a;視線)。すると、Qが『ここに巻けばいいんだよ。』とAに教え始めた。Aはそれを見てもう一度自分の力で挑戦し始めた。
これらは観察者がもう一度説明をしたり、代理で他児の意志を伝えたりすることで関係が続いたエピソードと捉えられる。エピソード[91]では、女児Pの意思を同じように繰り返すことでしっかりとAに届け、Aは他児に返事をすることが出来た。エピソード[112]では男児Qの『僕出来るよー。』という発言が単なる観察者へのアピールなのかAに対する返信なのかは不明瞭だが、ここでAも男児Qに注目している(113-a)。そこで観察者が男児Qの真似をするように指差しや声かけをして働きかけると男児Qもそれに応えるかのようにAにやり方を見せていた。最後には男児Qから『ここに巻けばいいんだよ。』という言葉を引き出すことが出来、Aも自分でやってみようという気持ちになったと考えられる。 園児たちだけでは教え合うところまでいけなかったが、観察者が男児Qの行動に具体的な説明を付け足すことで、園児同士のやりとりを導き出すことが出来た。
Aが意図的に観察者と他児の遊びに参加してきたエピソードとして[116]がある。
エピソード[116]は、他児から観察者への攻撃を真似することで3人での遊びが始まったエピソードである。最初はAから「魚が噛みつく」という攻撃(116-b)を受けていたが、男児Hの行動により、銃による攻撃に変化した。Aがこの時模倣を行ったのは、Aも男児Hも観察者を攻撃するという意味では同じ目的を持っていたためと考えられる。目的が同じだったため、『バンバンバン』という音が印象的な他児の行動を見て、すぐに模倣することが出来たのではないかと考える。
第U期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table6)。

視線:観察者や他児と距離が近いことが多かったため、自然に相手に向けるようになっていた。接近:他児との遊びに入る前に少し寄ってくることがあった。他児とかかわる前の安心のためと考えられる。身体接触:ない。模倣:他児の模倣をして、観察者にかかわる場面がいくつかあった。言葉:他児が遊びに参加した場合、言葉での交流よりも動作によって遊びのイメージが広がることがあった。