3.Aと他児

 Aと他児がかかわる場面を大きく3つに分け、それぞれ【他児の発信に反応出来ない時期】・【他児とかかわろうとする時期】・【他児の遊びを意識する時期】とした。なお、場面の分類に際して、観察者と他児が会話をしているところAが入ってくることで開始された場面であっても、最後には完全に他児とAのみのやりとりになったエピソードも「Aと他児」に分類し分析している。

第T期(10/22~11/8;6回) 【他児の発信に反応出来ない時期】

 この時期のAは、教室の園児集団の近くにおらず、遊び場を転々と移動していたり、作った作品を持って一人で大人に見せに行ったりするなど、他児への興味があまりない様子がうかがえた。エピソード[3]や[6]として記録した場面では、同じ机で何人かの園児が同じ折り紙をしていたが、自分の作品が作り終わると他児と交流をせず、一人で次の遊びを探しに机を離れていった。他児同士で折り紙を見せあっている幼児もいたが、Aはその輪には加わらなかった。
 この時期の観察者との遊び場面におけるAの特徴は、Aと観察者場面の第T期と同様@他者に対する意識を「後でちょっと行ってみよか」(7-a)「きれいな紙ー」(27-a)などの言葉で発することは出来るが、A話しかける対象に視線が向かないなど、視線が伴っていないことが多く、B誰に向けて発言した言葉なのかが明確ではなく、相手も応えにくいものであった。例えば、 エピソード[29]では完成した作品を「おもしろいよー。」という言葉とともに(29-a)見せようとしているが、視線が特定の誰かに向いていたわけではなかったため、誰も反応しなかった。また、A自身も自分の遊びに夢中であるため、C『ピンクでもいいんだよー。』、『私もやるー。』などの他児からの呼びかけには上手く反応出来ず(3-a,5-a)、反応を示さないことが多かった。

・[3]Aが観察者のために紫色の折り紙を持ってきてくれた。すると女児Bが『ピンクでもいいんだよー。』とAの方に視線を向けて言ったが、Aは反応しなかった(3-a;無反応)。[5]観察者には折り紙を持ってきてくれたり、作り方の紙を見せてくれたりしていたが、女児Cが『私もやるー。』と入ってきたがAは反応を示さず、自分の折り紙を折っていた(5-a;無反応)。
・[6]机の上でAや他の女児たちと折り紙をしていると、男児Dが寄ってきて観察者に『見てみて、これおばけ』と作品を見せてきた。それを聞いたAは「おばけこわい…」とその場でぼそっとつぶやいた(6-a;言葉)。男児Dによると隣のクラスでお化け屋敷をやっているらしい。それを聞くと、少し間を空けてA「おばけ怖いけど…後でちょっとだけ行ってみよか」と言い(7-a;言葉)、顔をあげたが(7-b;視線×)誰に発信したかはわからなかった。そのためか周りの誰も反応しなかった。
・[28]Aは工作用の机の周りをうろうろしながら何かを作っていた。すると「きれいな紙ー」と金色の折り紙を見つけて言った(27-a;言葉)。その言葉に女児Gが気付き振り向くと『金色じゃん。』と言ったが、A「きれーい。」とGの言葉を気にしていない様子だった。[29]Aが作っていた物が完成した。A「おもしろいよー。」(29-a;言葉)と誰にというわけではなく(29-b;視線×)、机を半周しながら(29-c;動作)言った。周りの園児が誰も反応しなかったので、Aは作品をS先生に見せに行った。[30]教室に戻ってくると「魔法のステッキー。」と(30-a;言葉)観察者の側を通った時に言った。視線は机の周りにいる園児だった(30-b;視線)が、みんな折り紙や工作に夢中で気付いていない様子だった。

 上記のエピソードからAが他児からの呼びかけにあまり積極的に反応していない様子がうかがえる。 エピソード[3]はAと他児は聞こえない距離ではなかったため、理解はしたが行動として表出されなかったことが考えられる。エピソード[6]では、他児に興味を示したというよりも「おばけ」という単語に反応していたと感じる。この時ハロウィンが近かったので、おばけや魔女という言葉に園児たちも反応しやすくなっていたことが考えられる。その後のお化け屋敷への誘い(7-a)は、観察者でも誰に向けたのかわからないほど唐突なものだった。エピソード[28]では「きれいな紙ー。」というAの発言に『金色じゃん』と女児Gが反応しているが、Aは気にしていない様子だった。エピソード[29]では、Aからのアピールは「おもしろいよー。」という言葉(29-a)や「魔法のステッキー。」という言葉(30-a)で行っているが、特定の誰かに向けたものではなかったため、他児も反応しづらく遊びに発展しなかったと考えられる。
 第T期を象徴するエピソードとして他児から追いかけっこの誘いを受ける場面を詳細にとりあげる。
   11/5(火)10:23 場所:年長組の教室のベランダ

・[36]Aはそれまで年長児Yとフリルのスカートやカチューシャを付け、お姫様になりきっていた。すると、レースのスカートを付けて同じような格好をした女児Gを見つけたA「あーーー。」と言って(36-a;言葉)、走って後を追いかけた(36-b;動作)。それに気付いて女児Gも走って逃げ始めた。[37]そのまま3人はベランダの端まで行ってまた戻ってきた。先にAとYが戻ってきた。後からGが戻ってきて『タッチ!!』と手でAの肩をタッチするが、Aは他のことに気をとられているのか、Gの行動には全く反応しなかった(37-a;無反応)。

 エピソード[37]で女児Gが"タッチする"という具体的かつ明確な反応をしているため、この流れのまま追いかけっこになることが期待出来たが、遊びは続かなかった。女児Gはしっかり肩にタッチしていて、声も出していたのでとても気付きやすいアプローチであったが、Aは反応しなかった。Aが女児Gとは別の方向を向いていたことから、興味が次のものへと移っていたことが考えられる。このエピソードではAから追いかけ始めているが、相手の誘いには上手く反応できていない。A自身が自分のやりたいことやイメージを伝えることは出来るが、相手からの誘いに合わせて遊びを開始するよりも自分のしたいことが優先されているためと考えられる。
 Aから他児を誘った場面としてエピソード[50]をとりあげる。

・[50]おいもパーティーで焼き芋を食べた後、年中組は自由時間となった。Aは食べ終わると、側にいた男児Iに「鉄棒しに行こう。」と(50-a;言葉)手をとって誘った(50-b;動作)。しかし、男児I は『ん?お部屋…』とぼそっと呟いて教室へ行ってしまった。[51]そのため今度は1人でふらふらしている男児Dを見つけ、「ねぇ、ブランコしよー。」と誘った(51-a;言葉)。視線も男児Dを向いている(51-b;視線)。この後DとAはブランコの方へ行って遊んでいた。後で2人ほど女児が増えていた。

 上記のエピソードは、普段自分からは他児を誘わなかったAが自分から遊びに誘った場面である。一度断られても1人で遊びにいかなかったことから、「友だちと遊びたい」という気持ちが大きくなり始めているのではないかと考える。
 第T期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table7)。

Table7

 視線:相手の方へ向いていない。物を見ていることが多い。接近:必要がなければ1人で遊んでいる。自分から相手へ接近することはあまりない。身体接触:タッチの時と遊びに誘う場面で身体接触が行われた。模倣:ない。他児の模倣よりも自分のイメージの方が大事な時期であるためと考えられる。言葉:誰に向けているのかは明確ではないが、声に出してアピールしていることが多い。


第U期(11/13~11/28;4回) 【他児とかかわろうとする時期】

 この時期では少しずつ他児とのかかわりも増えてきた。Aから他児を誘おうとする場面も見られた。例えば、エピソード[55]‐[56]机での準備が完成すると「お弁当屋さんでーす。何か入りますか?」と机の周りにいる他児全体への誘いと思われる言葉が出ていた(55-a,56-b)。視線は手元のままであった(55-b,56-b)ため、他児の反応はあまりなかったが、声に反応して寄ってきた女児Eとは遊びが成立していた。エピソード[64]でも男児Kに直接「ジャングルジムしようよ」と声をかけている(64-b)。第T期に比べ、他児に対する意識が強くなったのではないだろうか。

・[64]観察者とAと男児Kが一緒にジャングルジムまで来た。最初はジャングルジムで遊んでいるのを観察者に見せていたが、男児Kがふらっとしているのを見てA「Kくん何してるの?」とKに聞いた(64-a;言葉)。男児Kはもともと言葉の少ない子であり、反応が返って来なさそうだったので、観察者が<何してるのかな?どんぐり持ってるよ。>とAに答え、説明をした。Aはそれを受け「Kくんもジャングルジムしようよ。」と誘った(64-b;言葉)。観察者もKくんに< Kくん、ジャングルジムしようよって言われてるよ>と近くに行って伝えた。Kくんは少しだけジャングルジムを登って遊び始めた。

 上記のエピソードでAは観察者と遊びたいため観察者を誘い、一緒に行動していたが、男児Kは観察者についてきた幼児だったため、Aは最初男児Kについて注意を払っていなかったと考えられる。しばらく一緒に行動すると近くにいる男児Kに「Kくん何してるの?」と(64-a)Aから声をかけた。この様子から少しずつ他児の行動も気になり始めていることがうかがえる。男児Kは言葉が少なく、声も小さい幼児だったため、観察者がKの代わりにAに返事をした。それを受けAはKくんをジャングルジムへ誘おうとしていた(64-b)。反応がすぐ返ってきたため、Kくんへの興味がそれないまま次の言動に移れたのではないかと考える。このように、他児に対して行った呼びかけへの反応がAの関心が続いている状態で返ってくるという経験はこの時期のAにとっては大切であるのかもしれない。
 似たような経験として中学生との交流があった。この時期に中学生との調理実習があり、Aの班に来た中学生は女の子が多く、しっかり幼児を見て受信してくれる中学生だった。また、班員の中ではAと女児Nがよく発信をしており、中学生とAとのやりとりが自然に成立していた。具体的な例を1つあげる(エピソード[82])。

・[82]出来あがったおにぎりとみそ汁を食べていると、A「あーーー。ハートの葉っぱ。」と(82-a;言葉)窓の向こうを指さして(82-b;動作)言った。中学生b『ほんとだー。』と反応が返ってきた。Aが「かわいー。」と言って(82-c;言葉)中学生の方を向くと(82-d;視線)、中学生bが笑い返したので、Aも嬉しそうに笑った(82-e;笑い)。

 Aは自分の遊びの世界を広げることが好きであり、自分を主張することに夢中だったため、他児に受けてもらうことが少なかったのではないかと考える。そのため、このように対象は違っても受けてもらうという経験を積み重ねることで、Aが自分の世界を受け入れてくれた他者への興味をより持つようになったと考えられる。
 他児の呼びかけに反応し始めた場面としてエピソード[87]~[90]をとりあげる。

・[87]Aが劇に使う金貨を作り始めていた。「先生も一緒に作って。」と言うので(87-a;言葉)観察者も一緒に作っていた。[88]女児Gが近付いてきて、Aの様子をちらちらと見始めた。しばらく見てからG『何してるの?』とAに話しかけたがAは反応しなかった(88-a;無反応)。女児Gがもう一度『ねえねえ、何してるの?』ともう一度問いかけるとA「んー?お金作ってるの」(89-a;言葉)とGに半分背を向けたまま手元を見て答えた(89-b;視線×)。Gは『ふーん。』とその場を立ち去り、別の場所で金貨を作り始めた。[90]そのまま金貨作りを続けていると女児Pが寄ってきた。P『何してるの?』とAに聞くとA「金貨作ってるの」と答える(90-a;言葉)。女児Pは『Pも作る。』と言ったがAは反応しなかった(90-b;無反応)。

 エピソード[87]では、女児Gからの『何してるの?』という最初の呼びかけには反応出来なかった(88-a)が、同じ質問を繰り返されると反応をすることが出来た(88-b)。2回同じことを聞かれることで、他児がAに呼びかけているということが強調され、よりわかりやすくなったことが考えられる。そのため、他児の呼びかけに応えるところまでAが出来たと考える。エピソード[90]では同じ状況で別の女児とのやりとりであったが、1回目の質問で応えることが出来た。Aが他児からの呼びかけに反応することを学習したのではないかと考えられる。
 第U期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table8)。

Table8

 視線:まだ相手の方へ向いていないことが多いが、少しずつ視線も一緒に向くようになってきた。接近:自分から誘いたいときは相手を探してふらふら側に行くことがある。身体接触:なし。模倣:あまりない。言葉:相手からの呼びかけに上手く応えられないことがある。


第V期(12/6~12/19;4回)【他児の遊びを意識する時期】

他児との相互関係が成立するようになってきた時期である。第T期・第U期に比べ、Aが集団の近くにいることが多くなってきた。自分のこと以外にも他児の様子を気にしたり、話を聞こうとしたりする姿勢が観察された。

・[95]工作をしている男児Qと観察者が話している。男児Q『先生、ここに賞味期限って書いて』と言われたので、<ここ?>と確認すると側にいたAが寄ってきて(95-a;接近)、A「私ひらがな書ける」と言った(95-b;言葉)。視線は紙の方を向いていた(95-c;視線×)。[96]<Aちゃん書けるんや。すごいね。>と言うと男児Qが対抗して『僕も書けるよ。僕カタカナも書けるよ。』と言った。観察者が<本当?>と驚くとA「カタカナはまだ書けない」と言い(96-a;言葉)、男児Qの方を向いて(96-b;視線)「へへぇ」と照れたように笑った(96-c;笑い)。Q『えー、書けないの?』と言いながら2人でにやにやしていた。
・[106]全員が教室でクリスマスのブーツ作りをしていた。観察者が近付くとAの隣にいた女児Fが『これ、ハート。かわいいでしょ。』と観察者に見せてくれた。観察者<本当だ。色もいっぱいあってかわいいね。>と言うとAが「これ、フランスパン。それでこれはくっつけてちょうちょにするの。」と教えてくれた。[107]そして Aは女児Fに「これあげる。」と(107-a;言葉)Aが"フランスパン"に見立てた飾りを渡した。[108]女児Fはもう出来あがっていたので、少し迷惑そうな表情をしたが、Aには見えていない様子だった(108-a;視線×)。[109]A「Fちゃん、これあげるよ。」(109-a;言葉)ともう一度手渡す(109-b;動作)。Fはごにょごにょしていたが、一応受け取った。

 A自身から観察者と他児の会話に参加していったエピソードである。エピソード[95]は観察者と他児が会話をしているところへ側にいたAが入ってくる場面だった。観察者とA、観察者と他児のやりとりが最後には他児とAのやりとりになった。エピソード[106]では女児FとAが観察者へ作品のアピールをしたことをきっかけに幼児同士の交流が始まった。どちらも観察者への主張からお互いについての情報を知り、それをきっかけに知った情報について本人同士でやりとりが始まるという流れだった。このことから、観察者が幼児同士の遊びをつなぐ役割をする可能性が示唆される。
 エピソード[95]や[106]のようにAが他児の会話に参加するためには、他児やその行動に注意を払わなければならない。第T期のAは自分の工作に夢中で他児からAへの声かけに反応できていなかったが、第V期では工作中であっても、他児の発言を耳に入れることができるようになった。またAから他児に接近することが多くなった。第T期に比べ、他児への関心が高くなっているためと考えられる。また、今までAにとって遊び相手であった観察者が側にいたこともAの意識が他児へと向きやすかった理由と考えられる。
 Aが他児の遊びの様子をうかがう行動が現れたエピソードとして[115]がある。エピソード[115]では観察者と女児S・男児J・男児Hが教室のすみっこに輪になってコマをしている近くにAが来て、コマ遊びが盛り上がると輪の周りから様子をうかがおうとしていた(115-a;視線)。他児の楽しそうな様子を気にするようになるということは、自分の遊びをしつつ周りへも意識が向くようになってきたと考えられる。さらに、輪の中の様子を気にする素振り(115-a)もあり、他児の遊びが気になっていることがわかる。この後Aが遊びに入ってくることはなかったが、これは自分のコマを持ってきていなかったためと考えられる。
 第V期の大きなエピソードして病院ごっこの流れを詳細に取り上げる。
   12/18(水)9:50ごろ *病院ごっこに誘われる*

病院ごっこをして遊んでいた女児Tが女児FとAに近付いてきた。女児T『FちゃんとAちゃん、遊びたかったら病院に熱とかで来てよ。』2人ともあまり反応しない(119-a;無反応)。そのためTは個別に声をかけた。『Sちゃん、熱とかで病院に来てよ。遊ぼ。』『Aちゃんも、熱とかなんでもいいから来たら?』AはちらっとTの方を見たが声は出さなかった(119-b;視線)。すると、お道具箱へはさみを片付けに行き、病院の受付のところに歩いていった(120-a;接近)。やっぱり病院ごっこが気になっていた様子。女児Bが『受付なんですか?』と言うとAはちょっと困った顔をして(121-a;表情)、声を出さずに立っていた。女児B『受付なんですか?って聞いてるんだけど』と聞かれると、Aは声を出さず喉をさわった(121-b;動作)。喉の調子が悪いという設定なのかもしれない。しかし、女児B『えー、それじゃダメ。』と拒否されてしまった。もともと入る気満々というわけでもなさそうだったので、拒否されてしまい、ちょっと口をとがらせた(122-a;表情)。その後もしばらく受付に立っていた。観察者が側によってみたが、あまり反応しない(123-a;無反応)。観察者<病院に来たんですか?>と聞くとA「違う!!」と言って(123-b;言葉)その場を離れてしまった(123-c;動作)。Aはその後もずっと病院のゾーンを行ったり来たりしていた(124-a;接近)。するとやっと女児Tが気付いた。女児T『ねぇねぇ、病院に来たの?』と聞かれるとAはうんとうなずく(125-a;動作)。女児T『じゃあ、こっちで見るから入ってきて。』とようやく中に入れてもらえたようだった。Aは患者さんの役でいろいろ検査をされていた。観察者がたまたま近くに行くとA「先生は来ないでくださーい!!」といきなり大きな声で観察者へ言った(126-a;言葉)。Aがやっと声を出した。<はーい。先生は行きません。>と言って、その場を離れた。

 上記のエピソードは、他児の遊びが気になり始めているAに遊びの誘いがあった場面である。誘われたときに明確な反応はなかったが、自分の作業が終わった後に受付のある場所へ近づいたことから、他児の遊びの内容が気になっていたことがわかる。しかし、1回目はAの持つイメージが上手く女児Bに伝わらず、拒否されてしまった。前のAならここで遊び場を離れていたが、今回はしばらく周りから様子をうかがっていた。一度拒否されてしまったためか表情はくもっていた。これはAが遊びに入るチャンスをうかがっていた行動と考えられる。その結果、遊びに誘ってくれた女児Tに気付いてもらい参加することが出来た。しばらくして遊びの要領を掴むとAにも笑顔が見えた。その様子を見ていた観察者に気付き、大きな声で観察者に向けて呼びかけがあった。観察者に気付くことが出来たのも、自分以外のことに意識を向ける余裕が出来たからなのかもしれない。また、発言内容が観察者を誘うものではなかったことも印象深い。これは、「もう先生の助けはいらない。」というAからのメッセージとも捉えられる。
 第V期について分析の観点別にAの様子についてまとめる(Table9)。

Table9

 視線:相手の方へ向くようになってきた。接近:他児や集団の近くにいることが多くなった。自分から接近することもある。身体接触:なし。模倣:格好を真似していることはあるが、あまりない。言葉:他児の行動や発言に対して言葉が出ることが増えてきた。