1.調査方法

1-1.参与観察法

 参加観察法(participant observation)は、「調査者(観察者)自身が、調査(観察)対象となっている集団の生活に参加し、その一員としての役割を演じながら、そこに生起する事象を多角的に、長期にわたり観察する方法」(三隅・安部, 1974)と定義されている。現象が起きている現場(フィールド)に身を置いて、そこで直接体験された生のデータや一次資料を集めて、生態学的妥当性の高い現象把握をめざすアプローチである。参加観察法は、外から距離を置いて見ていたのではわかりにくい現象の詳細(detail)に立ち入り、行為、できごとの意味を、内部にいる者、あるいは行為者の視点から理解しようとするアプローチである(南, 1997)。方法論としては次のような特徴をもっている。@観察者が「できごとが起きるまさにその現場に身をおき、自分の目で見、耳で聞き、手で触れ、肌で感じ、下で味わった生の体験をもとに報告する」(佐藤, 1992)というような身体感覚的で全体的なアプローチであること、A通常の科学的研究が、誰の目にも明らかで再現性の高い客観的データの収集を重視するのに対して、対象との関わりを通してはじめて見えてくる「相互主観的」な理解を重視する(鯨岡, 1989)というような関係性を重視していること、B直接、自分が観察した事柄だけでなく、現地での聞き取りやインタビュー、文書資料の収集、場合によっては実験的な方法や質問紙調査などを併用し、多角的な現象理解に努める(佐藤, 1992)というマルチ・メソッドであること、の3つがあげられる。  参加観察では、対象者あるいは対象となる現象を、特定の場面、文脈や生活状況の中で観察する。研究者は、実験室や面接室に相手を呼ぶのではなく、対象者が活動する現場(フィールド)に自ら出向いて行き、現場をまるごと観察の対象とする。「人+状況」が観察の対象であり、分析の単位となる(南, 1997)。

1-2.記録の取り方

 観察した内容は、なんらかの方法で記録することによって初めてデータとなる。現場にビデオカメラやテープレコーダーを持ちこむことも可能であるが、参加者として一定の役割をとり活動を続けながら観察を行う場合、これらの道具を使えない場合も多い。むしろ、観察者自身の手によって残された「調査地で見聞きしたことについてのメモや記録」としてのフィールドノーツ(field-notes)こそが、参加観察の一次資料、データとして重要な意味を持ってい る(佐藤, 1992)。また、記録の媒体、方法はさまざまであるが、最低限、だれが、いつ、どこで、観察したのか、さらに観察記録をその場でとったのか、後から書いたのか、記録された語や説明は、観察者のものか、現地の人のものか、といった点についても明記しておくべきであり、観察の状況についても簡単な記録を残しておくことが望ましい(三隅・安部, 1974)。そのため、本研究ではフィールドノーツを作成し、そこに時間・天気・場所・発話者・発話内容を簡単に書き留めた。毎回の観察終了後、出来るだけ詳細に言語化して記録した。


2.観察時期

*2013年10月〜12月

 対象となった幼稚園は、午前/9:00〜10:30の自由遊び時間・10:30からのクラス単位での活動、午後/クラスごとの活動(場合により自由遊び時間)というスケジュールを基本としており、自由に遊びを選ぶ活動をベースとした保育が行われていた。年少組1クラス、年中・年長組各2クラス、全5クラスから成り、各クラスの人数は20〜30名で構成されていた。自由に遊ぶ時は、各クラスの間の壁は取り払われていた。今回は午前中の自由遊びの時間(9:00〜10:30)に週3回程度観察をした。


3.観察対象児について

 観察対象として4歳(年中)女児A児(以下、Aと記す)を取り上げた。

3-1.観察者からの見立て

 Aは、攻撃的でも消極的でもなく、自発的に言葉は出るが、遊びの中へうまく入っていけない場面が見られたため、本研究の観察対象とした。一人遊びに没頭している場面が多いが、他児のそばへ行って様子をうかがう、他児の反応を求めるような言葉が出ている、などの様子から、入りたい気持ちはあるがうまく出来ないことが多いのではないかと考えた。そこで同年齢同士では難しい補助的役割を保育者がかかわることで増やしたいと考えた。

3-2.担任の先生からの見立て

 担任の先生にAについてインタビューをおこなった。以下、担任の先生の発言である。「3月生まれで月齢が遅いことも関連していると思いますが、まだ幼い面があり、まだまだ自己中心的な、幼児期の特性の部分が強いところがあります。そのため、友達と遊び始めても自分の思いで、他に興味のあることを見つけると遊びからすっと抜けてしまい、友達との関係が途切れてしまうこともあります。友達との遊びの中では、『友達とのかかわり(関係)』よりも『遊び自体の興味、面白さ』にまだ本人の重点が置かれているかな。でも少しずつ友達への気持ちも比重が大きくなってきているようにも思えます。」


4.分析観点

 分析観点は、視線(礪波,2007)、接近(香曽我部,2010)、身体接触(藤田,2011)、模倣(礪波,2007.松井・無藤・門山,2001)、言語(松井・無藤・門山,2001.倉持・柴坂,1999)の5つとする。また、Aの他児に対する行動について発信・受信を区別し分析する。