1.分析対象者 2.尺度構成の検討 1)対先輩行動尺度 2)対上司行動尺度 3)サークル葛藤方略スタイル尺度 4)アルバイト葛藤方略スタイル尺度 3.活動群の分類と各活動群の特徴4.各活動群による各下位尺度得点の差 5.所属集団の属性の認知,活動への取り組みの姿勢と行動尺度との関連 6.積極責任得点と行動,葛藤方略スタイルとの関連 7.行動尺度と葛藤方略スタイル尺度との関連 8.行動尺度から葛藤方略スタイルへの影響 9.上位者の年齢と性別 |
1.分析対象者 分析対象者162名のうち,サークル活動とアルバイトのどちらも行っている者が87名,サークル活動のみ行っている者が42名,アルバイトのみ行っている者が33名であった. 2.尺度構成の検討 1)対先輩行動尺度 対先輩行動尺度20項目について,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った.どの因子にも|.40|以上の負荷を示さなかった項目を削除し,再び主因子法・プロマックス回転による因子分析を行うという手順をくり返した結果,最終的に5因子が抽出された(Table5).
Table5 対先輩行動尺度の因子分析結果(主因子法・プロマックス回転) ![]() 各因子に負荷の高かった項目の得点を足し合わせ,下位尺度得点を算出した.各下位尺度は,それぞれ因子名と同様に「対先輩礼儀行動」「対先輩親交行動」「対先輩衝突回避行動」「対先輩参照行動」「対先輩服従行動」とした.「対先輩服従行動」については十分な内的整合性が認められなかったが,先行研究と同様の項目から構成されたため,そのまま分析に用いた.他の下位尺度については,十分な内的整合性が認められた. 対先輩行動尺度の下位尺度得点の相関係数と平均,標準偏差をTable6に示す.
![]() 2)対上司行動尺度 対上司行動尺度20項目について,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った.どの因子にも|.40|以上の負荷を示さなかった項目を削除し,再び主因子法・プロマックス回転による因子分析を行うという手順をくり返した結果,最終的に5因子が抽出された(Table7). Table7 対上司行動尺度の因子分析結果(主因子法・プロマックス回転)
因子分析によって得られた5因子全てにおいて,対先輩行動尺度と同じ行動カテゴリの項目が,それぞれの因子で高い負荷を示した. 各因子に負荷の高かった項目の得点を足し合わせ,下位尺度得点を算出した.各下位尺度は,それぞれ因子名と同様に「対上司礼儀行動」「対上司参照行動」「対上司衝突回避行動」「対上司親交行動」「対上司服従行動」とした.「対上司服従行動」についてはα係数がやや低い値であったが,対先輩上司行動尺度と同様の行動カテゴリの項目から構成されたため,そのまま分析に用いた.他の下位尺度については,十分な内的整合性が認められた. 対上司行動尺度の下位尺度得点の相関係数と平均,標準偏差をTable8に示す. Table8 対上司行動下位尺度得点の相関
3)サークル葛藤方略スタイル尺度 サークル葛藤方略スタイル尺度20項目について,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った.どの因子にも|.40|以上の負荷を示さなかった項目を削除し,再び主因子法・プロマックス回転による因子分析を行うという手順をくり返した結果,最終的に5因子が抽出された(Table9). Table9 サークル葛藤方略スタイル尺度の因子分析結果(主因子法・プロマックス回転)
加藤(2003)を参考に,各因子の解釈を行った.先行研究の因子構成と比較すると,「サークル葛藤回避スタイル」「サークル葛藤強制スタイル」「サークル葛藤相互妥協スタイル」は,それぞれ先行研究の「回避スタイル」「強制スタイル」「相互妥協スタイル」の下位因子で構成されたことから,ほぼ同様の因子構成が得られたと考えられた.しかしながら,「サークル葛藤統合スタイル」には「相互妥協スタイル」の下位因子が,また,「サークル葛藤譲歩スタイル」には「回避スタイル」の下位因子が存在し,この2因子については先行研究と異なる因子構成となった. 各因子に負荷の高かった項目の得点を足し合わせ,下位尺度得点を算出した.各下位尺度は,それぞれ因子名と同様に「サークル葛藤統合スタイル」「サークル葛藤回避スタイル」「サークル葛藤強制スタイル」「サークル葛藤譲歩スタイル」「サークル葛藤相互妥協スタイル」とした.「サークル葛藤統合スタイル」因子に含まれた「15.お互いの意見が歩み寄ったところで,取り決めようとする」は,先行研究では「相互妥協スタイル」の下位因子として抽出されているが,この項目は自他双方の立場を尊重し,問題解決を志向している方略であるとも解釈できることから,本研究では「サークル葛藤統合スタイル」の下位尺度項目として扱った.「サークル葛藤譲歩スタイル」因子に含まれた「5.お互いの意見の相違に直面しないようにする」は,先行研究で「回避スタイル」の下位因子として抽出されていることや,相手の意見や要求に従うという譲歩スタイルの概念と解釈し難いことから,「サークル葛藤情報スタイル」の下位尺度項目から除外した. 「サークル葛藤相互妥協スタイル」については十分な内的整合性が認められなかったが,先行研究で「相互妥協スタイル」因子に含まれる項目で構成されていたため,そのまま分析に用いた.他の下位尺度については,十分な内的整合性が認められた. サークル葛藤方略スタイル尺度の下位尺度得点の相関係数と平均,標準偏差をTable10に示す. Table10 サークル葛藤方略スタイル下位尺度得点の相関
4)アルバイト葛藤方略スタイル尺度 アルバイト葛藤方略スタイル尺度20項目について,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った.どの因子にも|.40|以上の負荷を示さなかった項目を削除し,再び主因子法・プロマックス回転による因子分析を行うという手順をくり返した結果,最終的に4因子が抽出された.(Table11) Table11 アルバイト葛藤方略スタイル尺度の因子分析結果(主因子法・プロマックス回転)
加藤(2003)を参考に,各因子の解釈を行った.先行研究で見られた「相互妥協スタイル」に相当する因子は抽出されず,「アルバイト葛藤統合スタイル」のなかに「相互妥協スタイル」の下位因子が存在するという因子構成となった.「アルバイト葛藤強制スタイル」「アルバイト葛藤回避スタイル」「アルバイト葛藤譲歩スタイル」は,それぞれ先行研究の「強制スタイル」「回避スタイル」「自己譲歩スタイル」の下位因子で構成されたことから,この3因子については先行研究とほぼ同様の因子構成が得られたと考えられた. 各因子に負荷の高かった項目の得点を足し合わせ,下位尺度得点を算出した.各下位尺度は,それぞれ因子名と同様に「アルバイト葛藤統合スタイル」「アルバイト葛藤回避スタイル」「アルバイト葛藤強制スタイル」「アルバイト葛藤譲歩スタイル」「アルバイト葛藤相互妥協スタイル」とした.すべての下位尺度について,十分な内的整合性が認められた. アルバイト葛藤方略スタイル尺度の下位尺度得点の相関係数と平均,標準偏差をTable12に示す. Table12 アルバイト葛藤方略スタイル下位尺度得点の相関
3.活動群の分類と各活動群の特徴 サークル活動とアルバイトのどちらも行っているものを「サークル・バイト群(n =87)」,サークル活動を行っており,アルバイトを行っていないものを「サークル群(n =42)」,アルバイトを行っており,サークル活動を行っていないものを「アルバイト群(n =33)」として3つの活動群に分類した. 以下のFigure2,3は,被験者が所属するサークル集団の種類とアルバイトの職種の傾向を,活動群別に示したものである.サークル集団の種類については,サークル・バイト群ではスポーツ系サークルが最も多く,次いでスポーツ系クラブが多い結果となった.サークル群では,文化系クラブとスポーツ系クラブの割合が大半を占める.サークル群では,サークル・バイト群と比較して,文化系クラブの占める割合が大きくなっていた.アルバイトの職種については,サークル・バイト群では,接客・ウェイターが最も多く,次いで塾・家庭教師が多いという結果となった.アルバイト群においても,接客・ウェイターと塾・家庭教師の占める割合は大きく,サークル・バイト群と比較すると,販売・レジの占める割合が大きいことも目立った. Figure2 サークル集団の種類 活動群別に,サークル活動あるいはアルバイトの勤務の頻度の傾向をFigure4,5に示す. Figure4 サークル活動の頻度
集団に所属している目的についての回答結果を,群別にまとめたものがFigure6-9である.度数は,それぞれの項目について重要度が高い順に1位〜3位として,その項目を選択した被験者数を表す. Figure6 サークル・バイト群のサークル集団所属の目的 Figure7 サークル群のサークル集団所属の目的
Figure8 サークル・バイト群のアルバイト勤務の目的 Figure9 アルバイト群のアルバイト勤務の目的
4.各活動群による各下位尺度得点の差 活動群と各行動下位尺度・各葛藤方略スタイル下位尺度との関連を検討するため,活動群を独立変数,各下位尺度を従属変数としてt検定を行った.その結果をTable13-16に示す.サークル活動についてはサークル・バイト群とサークル群の2群,アルバイトにおいてはサークル・バイト群とアルバイト群の2群について,それぞれ検討した. アルバイトについては,対上司行動では活動群間に有意な差はみられなかった.アルバイト葛藤方略スタイルでは,統合スタイルで活動群間に有意な差がみられた(t(118)=2.29, p<.05) Table13 サークル・バイト群とサークル群における対先輩行動下位尺度得点の差 Table14 サークル・バイト群とサークル群におけるサークル葛藤方略スタイル下位尺度得点の差 Table15 サークル・バイト群とアルバイト群における対上司行動下位尺度得点の差 Table16 サークル・バイト群とアルバイト群におけるアルバイト葛藤方略スタイル下位尺度得点の差 5.所属集団の属性の認知,活動への取り組みの姿勢と行動尺度との関連 「積極性」「役割の重要度」「同期/同僚との連携」「先輩/上司との連携」「アフターの有無」「アフターへの参加」と,各行動下位尺度の相関係数を活動群別に算出した.その結果をTable17-20に示す. 積極性 ・・・「わたしは,所属している団体の活動に,積極的にかかわっている.」 「わたしは,アルバイト先の業務に,積極的にかかわっている.」 役割の重要度 ・・・「わたしは,所属している団体の活動において,重要な役割を担っていると思う.」 「わたしは,アルバイト先の業務において,重要な役割を担っていると思う.」 同期/同僚との連携 ・・・「わたしの所属している団体では,同期のメンバーと連携しないと上手く活動が行えない.」 先輩/上司との連携 ・・・「わたしの所属している団体では,先輩と連携しないと上手く活動が行えない.」 「わたしのアルバイト先では,上司と連携しないと上手く業務が行えない.」 アフターの有無 ・・・「わたしの所属している団体では,活動時間外に,先輩を含むグループで食事などに行くことがよくある.」 「わたしのアルバイト先では,勤務時間外に,上司を含むグループで食事などに行くことがよくある.」 アフターへの参加 ・・・「わたしは,所属している団体の先輩も参加する飲み会などに,積極的に参加している.」 「わたしは,アルバイト先の上司も参加する飲み会などに,積極的に参加している.」 Table17 集団特性・取り組みの姿勢と対先輩行動との相関(サークル・バイト群n =87) Table18 集団特性・取り組みの姿勢と対上司行動との相関(サークル・バイト群n =87)
Table19 集団特性・取り組みの姿勢と対先輩行動との相関(サークル群n =42) Table20 集団特性・取り組みの姿勢と対上司行動との相関(アルバイト群n =33) 6.積極責任得点と行動,葛藤方略スタイルとの関連 「わたしは,所属している団体の活動に,積極的にかかわっている.」 + 「わたしは,所属している団体の活動において,重要な役割を担っていると思う.」 ‖ サークル活動の積極責任得点(以下,サークル積極責任) 「わたしは,アルバイト先の業務に,積極的にかかわっている.」 + 「わたしは,アルバイト先の業務において,重要な役割を担っていると思う.」 ‖ アルバイトの積極責任得点(以下,アルバイト積極責任) 積極責任H・L群の分類・・・積極責任得点の平均値より高い値のものをH群,平均値以下のものをL群とした. 積極責任H・Lと各行動下位尺度・各葛藤方略スタイル下位尺度との関連を検討するため,積極責任H・Lを独立変数,各下位尺度を従属変数としてt検定を行った.その結果をTable21-24に示す. 対先輩行動では,礼儀行動(t(127)=3.56, p<.01)と親交行動(t(127)=6.02, p<.001),参照行動(t(127)=3.11, p<.01)について,サークル積極責任H・L群間における平均値の差が有意であった.サークル葛藤方略スタイルでは,統合スタイルについて,サークル積極責任H・L群間における有意差がみられた(t(127)=3.15, p<.01).対上司行動では,親交行動について,アルバイト積極責任H・L群間における差に有意傾向がみられるにとどまった(t(118)=1.96, p<0.1).アルバイト葛藤方略スタイルでは,統合スタイルについて,アルバイト積極責任H・L群間における有意差がみられた(t(118)=2.71, p<.01). Table21 サークル積極責任H・L群における対先輩行動下位尺度得点の差 Table22 サークル積極責任H・L群におけるサークル葛藤方略スタイル下位尺度得点の差 Table23 アルバイト積極責任H・L群における対上司行動下位尺度得点の差
Table24 アルバイト積極責任H・L群におけるアルバイト葛藤方略スタイル下位尺度得点の差 7.行動尺度と葛藤方略スタイル尺度との関連 各群における行動尺度と葛藤方略スタイルとの関連について,3群間の比較検討を行うため,群別に対先輩行動下位尺度得点とサークル葛藤方略スタイル下位尺度得点との相関係数を算出した.その結果をTable25-28 に示す. Table25対先輩行動とサークル葛藤方略スタイルの相関(サークル・バイト群n=87) Table26 対上司行動とアルバイト葛藤方略スタイルの相関(サークル・バイト群n=87)
Table27 対先輩行動とサークル葛藤方略スタイルの相関(サークル群n=42) Table28 対上司行動とアルバイト葛藤方略スタイルの相関(アルバイト群n=33) 8.行動尺度から葛藤方略スタイルへの影響 サークル・バイト群,サークル群,アルバイト群の各群において,行動下位尺度が葛藤方略スタイル尺度の下位尺度に与える影響を検討するために,行動下位尺度を独立変数,葛藤方略スタイル下位尺度を従属変数とした重回帰分析を行った.その結果をもとに作成したパス図をFigure10-13 に示す.パス図には,有意な影響が見られたパスのみを記載した.実線のパスは正の影響を,点線のパスは負の影響を表す. Figure10 対先輩行動からサークル葛藤方略スタイルへの影響(サークル・バイト群:n=87)
Figure11 対上司行動からアルバイト葛藤方略スタイルへの影響(サークル・バイト群:n=87)
Figure12 対先輩行動からサークル葛藤方略スタイルへの影響(サークル群:n=42)
Figure13 対上司行動からアルバイト葛藤方略スタイルへの影響(アルバイト群:n=33) サークル・バイト群では,サークル葛藤場面において,礼儀行動が統合スタイルに正の影響(β=.38, p<.001)を,衝突回避行動が回避スタイルと譲歩スタイルに正の影響(β=.37, p<.01 , β=.40, p<.001)を与えていた.アルバイト葛藤場面においては,礼儀行動が回避スタイルに正の影響(β=.38, p<.01)を,強制スタイルに負の影響(β=−.52, p<.01)を与えていた.衝突回避行動は,回避スタイルと譲歩スタイルに正の影響(β=.22, p<.05 , β=.38, p<.001)を,統合スタイルに負の影響(β=−.36, p<.01)を与えていた.参照行動は,統合スタイルと譲歩スタイルに正の影響を与えていた(β=.45, p<.001 , β=.27, p<.05). サークル群では,サークル葛藤場面において,衝突回避行動が譲歩スタイルに正の影響(β=.64,
p<.001)を与えていた. アルバイト群では,アルバイト葛藤場面において,親交行動が回避スタイルに負の影響(β=−.51, p<.01)を与えていた.衝突回避行動は,回避スタイルと譲歩スタイルに正の影響(β=.55, p<.01 , β=.57, p<.01)を与えていた. 9.上位者の年齢と性別 被験者が想起した上位者について,年齢と性別の分布をTable29-30に示す. Table29 被験者が想起した先輩と上司の性別 Table30 被験者が想起した先輩の学年と上司の年齢
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