サークル活動とアルバイトにおける対人葛藤方略の選択
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考察

1.仮説1の検証サークル集団とアルバイト集団における,上位者に対する普段の態度や働きかけの相違
2.仮説2の検証(1)各活動群の基本的な特徴
3.仮説2の検証(2)各活動群による上位者に対する普段の態度や働きかけの相違
4.上位者に対する普段の態度や働きかけに関連する諸要因
5.仮説3の検証行動尺度と葛藤方略スタイル尺度との関連

1.仮説1の検証サークル集団とアルバイト集団における,上位者に対する普段の態度や働きかけの相違

 サークル集団とアルバイト集団の上位者に対する態度や働きかけの特徴を明らかにするため,各下位尺度得点の平均値と各下位尺度間の相関係数を算出した(Table6,8).その結果,サークル集団とアルバイト集団とに共通して,礼儀行動の平均値が他の行動に比べて高い値(対先輩礼儀行動Mean= 4.41(SD= 2.37), 対上司礼儀行動Mean= 4.44(SD= 2.48))を取り,逆に,服従行動は比較的低い値(対先輩服従行動Mean= 2.15(SD= 2.40), 対上司服従行動Mean= 2.17(SD= 2.83))となった.

 
これは,集団の上位者に対して,大学生が全体的に礼儀行動を取りやすく,一方で服従行動はそれほど取らないということを示している.自分よりも目上の他者に対して礼儀的な行動を取ることは,社会的行動として一般的に望ましいとされていることであり,本研究の対象となった大学生においても,そのような行動をとることができていると言えるだろう.


 一方で,「先輩の使い走りをする」「先輩の荷物を持つ」などの,自分が犠牲となって上位者のために尽くすような服従行動は,あまり行わない傾向にあるようである.親交行動と参照行動については,サークル集団の方がアルバイト集団に比べて平均値が高かった(対先輩親交行動
Mean= 3.14(SD= 3.77),対上司親交行動Mean= 2.54(SD= 3.90),対先輩参照行動Mean= 3.74(SD= 2.30),対上司参照行動Mean= 3.18(SD= 3.36)).


 このような結果となった要因の一つとして,サークル集団の先輩は年齢や立場が近い存在であることから,「先輩と個人的に遊びに行く」「先輩のような考え方をしたい」といった親交行動や参照行動が生起されやすいということが考えられる.これに対して上司は,サークルの先輩と比べると,年齢や立場が個人や集団によって大幅に異なることが予想されるので,上司が身近であると認知するかどうかというところにも個人差が見られやすいと考えられる.本研究の調査においても,被験者が想起した上司の年齢は
20代が47.5%,30代が26.7%,40代以上が20.8%と幅がみられた(Table30).アルバイト集団で親交行動と参照行動の平均値にばらつきが見られたのは,このような要因が絡んでいるためと思われる.

 

 各下位尺度間の相関(Table6,8)については,サークル集団とアルバイト集団に共通して,礼儀行動と衝突回避行動,親交行動と参照行動の間に,それぞれ有意な正の相関関係がみられた.そして,これらの行動の相関関係については,アルバイト集団の方がサークル集団に比べて高い相関を示した(対先輩礼儀×衝突回避r =.241, p<.05,対上司礼儀×衝突回避r =.406, p<.001,対先輩親交×参照r =.277, p<.01,対上司親交×参照r =.461, p<.01).


 礼儀行動と衝突回避行動の間に正の相関が示された理由としては,「先輩(上司)と意見が食い違ったら譲る」などの衝突回避行動が,上位者に対する礼儀であるとも解釈されること,また,「先輩(上司)には失礼のないように接する」といった礼儀行動をしなければ上位者との衝突のリスクが生じると考えられることなどが挙げられる.親交行動と参照行動に正の相関がみられた理由としては,先に述べたこととも関連するが,上位者を身近な存在であると捉えているかどうかということが考えられる.他には,親しく接することで参照行動が生起される,また逆に,参照にしたいという思いから積極的に関わっていくようになる,といった双方向からの影響によって関連性が生じている可能性が考えられるであろう.
そして,アルバイト集団において,よりこの傾向が強いといえる.


 以上から,「サークル集団とアルバイト集団とでは,集団内の上位者に対する普段の態度や働きかけに異なる特徴があるだろう.」という仮説1は,一部支持された.

 

2.仮説2の検証(1各活動群の基本的な特徴

 まず,サークル集団とアルバイト集団の両方に所属している者と,どちらか一方のみに所属している者とに,それぞれどのような特徴があるのかを明らかにするため,サークル集団とアルバイト集団の両方に所属している者を「サークル・バイト群」,サークル集団のみに所属している者を「サークル群」,アルバイト集団のみに所属している者を「アルバイト群」として,3つの活動群に分類して分析を行った.以下から,各活動群の特徴を分析結果から概観する.

 
 サークル集団に所属するサークル・バイト群とサークル群の両者については,所属サークルの種類(
Figure2)の特徴として,サークル・バイト群はいわゆるサークル系の団体,サークル群はいわゆるクラブ・部活動系の団体に所属している割合が,それぞれ多いということが分かった.このことから,いわゆるサークル系の団体はアルバイトをしながら所属可能な集団であるのに対して,クラブ・部活動系の団体はそれらの活動に費やす時間や労力が比較的多くかかるために,アルバイトをしないで,それらの団体の活動を行っている人が多いということが予想される.これは,サークル・バイト群とサークル群の活動頻度の結果(Figure4)で,サークル群の方がサークル・バイト群と比べて週5日以上の占める割合が多くなっていることからもうかがえる.

 サークル集団所属の目的については,サークル・バイト群とサークル群ともに「活動自体を楽しむため」が目的の重要度の1位に最も多く選択されている.両者で目立って異なるのは「友人を得るため」という目的の重要度の位置づけである.サークル・バイト群においては,「友人を得るため」という項目は重要度全体としても「活動自体を楽しむため」に次いで多くなっており,重要度1位に選択している割合も高い(Figure6).それに対してサークル群では,「友人を得るため」を重要度1位に選択している者はおらず,「視野を広げるため」を1位に選んでいる者が比較的多かった(Figure7).これらのことから,サークル群はアルバイトを行っていない分,サークル活動を楽しむだけでなく,自己啓発的な機能もサークル集団に求めていると考えられる.

 アルバイト集団に所属するサークル・バイト群とアルバイト群については,職種や勤務頻度で両者にほとんど差はみられなかった.これは,サークルをしていようといまいと,1週間での勤務日数が変わらないという結果であるといえるが,サークル活動を行っていない分,アルバイト群の方がアルバイトに従事している時間が長いということも予想される.本研究では1回の勤務時間を調査しなかったために,アルバイト群では1回での勤務時間がサークル・バイト群に比べて長いということも考えられるだろう.

 アルバイト勤務の目的については,両者ともに「趣味などの出費に充てるため」「貯金するため」といった項目が多く選択され,いくつかの先行研究と同様にアルバイトは金銭目的に行われている部分が大きいということがわかった.

 

3.仮説2の検証(2各活動群による上位者に対する普段の態度や働きかけの相違

 上位者に対する普段の態度や働きかけについて,活動群による差があるかどうかを明らかにするために,活動群を独立変数,行動下位尺度を従属変数としたt検定を行った.その結果,サークル集団に所属するサークル・バイト群とサークル群とでは,服従行動がサークル群で有意に高かった(t(127)=2.29, p< .05).アルバイト集団に所属するサークル・バイト群とアルバイト群とでは,対上司行動に有意な差はみられなかった.

 これらのことから,アルバイト集団では,サークル集団にも所属しているか否かということと上司に対する普段の態度や働きかけとは関連がなく,仮説2は支持されない結果となった.サークル集団においては仮説2が一部支持されたとも考えられるが,サークル所属のみのサークル群で服従行動が高くなった要因は,先に述べたサークル・バイト群とサークル群の特徴の差異についてのみでは説明することが不可能であると考えられる.この点についてはさらなる調査が必要であろう.

 

4.上位者に対する普段の態度や働きかけに関連する諸要因

 各活動群間での行動尺度得点の有意差はほとんど見られなかったため,上位者に対する普段の態度や働きかけに関連する他の要因を探るべく,行動尺度と関連をもつと予想される変数と,行動尺度との関連について検討した.

 集団特性・活動への取り組みの姿勢に関する項目と,行動尺度との相関分析の結果,サークル集団・アルバイト集団ともに,アフターの有無の得点とアフターへの参加の得点が,親交行動と有意な正の相関を示した(Table17,18).このことから,上位者への親交行動は,サークルのメインの活動やアルバイトの勤務中だけでなく,活動時間外の飲み会や食事会などの機会があることで生起されやすくなると考えられる.また,そういった飲み会などに積極的に参加することで上位者との親密な関係性が築かれ,飲み会の場以外でも,上位者に対する親交行動が導き出されるようになる可能性も考えられる.逆に,普段から上位者と普段から親しくすることで,飲み会への参加動機が生起されるとも解釈できる.いずれにせよ,この結果から,上位者に対する態度や働きかけに影響する要因は,メインの活動や勤務以外の場にも存在するということが示されたといえる.

 
サークル集団に関しては,先輩との連携得点と親交行動との間に正の相関関係がみられ,先輩との連携が必要とされる活動内容であるほど,親交行動が生起されやすいことが分かった(Table17).積極性については,サークル集団では積極性が高いほど礼儀行動と親交行動が高くなるのに対し(Table17),アルバイト集団では,積極性と礼儀・親交行動とは有意な相関は見られなかった(Table18).

 この結果は,サークル活動に積極的に参加することと,アルバイトを積極的に行うことの意味の違いを示唆するものであると考える.例えば,サークル活動に積極的に参加するという場合に,先輩とも積極的に関わり,協同して活動を展開していこうとすることが考えられる.これは,「活動を楽しむため」「友人を得るため」といった項目が,サークル集団所属の目的として重要度が高く評価されているということからも推測される(Figure6,7).つまり,サークル活動自体を楽しむためには,先輩と積極的な関わりをもち,その際に礼儀的なふるまいをすることが,ある程度必要であるということが考えられるのである.一方,アルバイトを積極的に行うという場合では,必ずしも上司との積極的な関わりを必要とせず,自分の仕事を効率よく行いさえすればよいということが考えられるということである.これには,アルバイト勤務の目的として「趣味などの出費に充てるため」「貯金するため」などの,勤務自体ではなく,勤務によって得る収入についての重要度が高く評価されていること(Fugure8,9)が関係していると思われる.

 以上のように,積極性については,サークル集団とアルバイト集団で行動尺度との関連に差がみられる結果となった.ただし,役割の重要度については,サークル集団とアルバイト集団でともに親交行動と有意な正の相関を示している.サークルにしてもアルバイトにしても,集団内で重要な役割を担っていると認知している場合に,その役割を遂行していく上で,上位者と積極的に関わることが必要になってくるということであろう.

 集団特性・取り組みの姿勢と行動尺度との相関分析の結果において,各活動群による違いがみられた(Table17-20).サークル群において積極性,役割の重要度,同期との連携,先輩との連携と礼儀行動との間に正の相関が有意であった(Table17).これらの結果は,サークル群では,サークル・バイト群と比べて,クラブ・部活動系の団体に所属している者が多いことに関連するものであると考えられる.すなわち,クラブ・部活動系の団体は,サークル系の団体と比較すると,概して,先輩に対する礼儀正しい行動・形式的な礼儀を求める雰囲気があると考えられることから,そのようなクラブ・部活動系の団体の性質を反映した結果であると推測される.また,サークル群の活動の頻度は,サークル・バイト群よりも比較的高いということも,積極性と正の相関が見られたこととの要因の一つと考えられよう.

 積極性については,サークル・バイト群においても礼儀行動と正の相関関係を示したが(r =.29, p<.01Table15),相関係数の値はサークル群の方が高くなっている(r =.44, p<.01).この結果は,サークル・バイト群が多く参加しているサークル系の集団において,先輩に対する礼儀正しい行動・形式的な礼儀が,積極的に活動に参加する上で必ずしも求められるわけではないと言うことを示唆しているだろう.

 また,積極責任H・L群による行動下位尺度得点の平均の差について検討するために,積極責任H・L群を独立変数,各下位尺度を従属変数としたt検定を行った.その結果,サークル集団の親交行動と礼儀行動において,サークル積極責任H群が有意に高い結果となった.アルバイトでは,親交行動についてアルバイト積極責任H群の方が高い値を取っているが,その差は有意傾向にとどまった.集団の活動参加に積極的かどうか,集団内で責任ある役割を担っているかどうかは,サークル集団における上位者との関わりにおいて特に関連があるようである.

 

5.仮説3の検証行動尺度と葛藤方略スタイル尺度との関連

 集団内の上位者に対する普段の態度や働きかけの特徴と,葛藤時に選択する解決方略との関連を明らかにするため,行動尺度と葛藤方略スタイル尺度の相関分析と重回帰分析を行った.重回帰分析については,各行動下位尺度を独立変数,葛藤方略スタイル下位尺度を従属変数として,階層的重回帰分析を行った.各活動群による対先輩(上司)行動の差はほとんど見られなかったため,以下では,サークル集団とアルバイト集団の両方に所属するサークル・バイト群の分析結果について検討する(Table25,26, Figure10,11).

 分析の結果,サークル集団とアルバイト集団とに共通して,衝突回避行動と回避スタイル,譲歩スタイルの2つの方略スタイルとの間に正の相関関係がみられた.また,重回帰分析によって,衝突回避行動から回避スタイルと譲歩スタイルへの正の影響が,サークル・アルバイトの両者で確認された.普段から葛藤を起こすまいとして行動するのが衝突回避行動であるから,いざ葛藤が生じた場合に,その問題に直面するのを避けようとしたり,上位者の意見に合わせようという方略スタイルを取るという傾向は容易に推測できる.

 これも両集団で共通の傾向として,礼儀行動と強制スタイルの間には負の相関関係がみられた.また,重回帰分析においては,アルバイト集団でのみ,礼儀行動から強制スタイルへの負の影響がみられた.これらの結果から,普段,先輩や上司を立てるなどの礼儀的な行動をとる者が,葛藤時に自分の意見を押し通そうとするような方略スタイルをとりにくいということが考えられる.さらに,アルバイトでは,礼儀行動をよく取るほど,強制スタイルのような自分の意見を強く主張する葛藤方略スタイルは抑制されることが示唆された.

 逆に,アルバイト集団ではみられず,サークル集団でのみみられた傾向としては,礼儀行動と統合スタイルが正の相関を示したことがあげられる.重回帰分析の結果からも,サークル集団における礼儀行動が,統合スタイルに正の影響を与えていることが示された.統合スタイルは,相手の意向だけでなく自分の主張も取り入れて問題を解決しようとする方略であることから,先輩を立てることを志向する礼儀行動との間でのみ,有意な正の関連性を示したことは興味深い結果である.ちなみに,礼儀行動は,自分の意見を抑制して相手の意見を取り入れる譲歩スタイルとの関連性はみられなかった.

 これに対しアルバイト集団では,礼儀行動は回避スタイルに正の影響を与えているという結果が示された.回避スタイルは問題に対する直接的な行動を避けようとする,最も消極的な方略スタイルであり,一時的には葛藤状態に有効である場合もあるが,問題の本質的な解決にはつながりにくい(大渕,2005).この回避スタイルに正の影響を与えている礼儀行動は,他の行動下位尺度に比べて,上位者に対して多く取られる行動であることが,本研究の結果で示されている.このことから,上位者との間の葛藤が解決されにくいという特性が,アルバイト集団にあるということが推測される.しかしながら,回避スタイルを使用することによって,集団内の和を保つことや,まわりの人から我の強い人間だと思われずに済むといった効果が得られたことが,大渕・渥美(2002)によって明らかにされている.礼儀行動も,自分を主張しすぎることなく相手を立てて,集団の和を保つことなどを目的として行う行動であることから,アルバイト集団においては,問題そのものの解決よりも,上司との間の不快な状況を避けて集団内の和を保つことなどを志向して,葛藤方略スタイルを選択していると考えられる.

 以上より,上位者に対する行動と,葛藤時に選択する解決方略とに関連がみられたことから,仮説3は支持された.