サークル活動とアルバイトにおける対人葛藤方略の選択
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まとめ

1.全体的考察
2.今後の課題
3.引用文献

1.全体的考察

 本研究における3つの目的を軸に,全体的考察を行う.

第一に,サークルやアルバイト集団の上位者に対して,大学生が普段どのような行動をとるか,どのような葛藤方略を選択するのかという点について以下に記す.

本研究の対象となった大学生において,集団の上位者に対して礼儀行動を取りやすい.一方で,自分が犠牲となってまで上位者のために尽くすような服従行動は,あまり取らない傾向にあることが明らかになった.また,アルバイト集団よりもサークル集団の方が,「先輩と個人的に遊びに行く」「先輩のような考え方をしたい」といった親交行動や参照行動が生起されやすいということが示された.

 葛藤方略の選択については,上位者に対する行動との関連性から検討したところ,普段から葛藤を起こすまいとして行動する衝突回避行動が,葛藤時には回避スタイルや譲歩スタイルなどの,自己志向性の低い解決方略を選択する一要因となっていることが示唆された.さらに,社会的に望ましい行動である礼儀行動が,サークル集団において,問題解決に有効であるとされる統合スタイルに正の影響を与えていた.また,同じく礼儀行動が,アルバイト集団においては,根本的な問題解決につながりにくい回避スタイルに正の影響を示した.このことから,集団の特性の違いや,その違いによって生じると考えられるサークル葛藤場面とアルバイト葛藤場面に対する解決目標の違い,すなわち葛藤を起こさないことを第一の目標とするか,あるいは問題から逃げずに解決することを第一の目標とするかによって,選択される解決方略スタイルが異なるという可能性が示唆された.

 
第二に,集団の特性や活動への取り組みの姿勢の違いが,集団の上位者に対する普段の態度や働きかけ方と関連があるかどうかという点について以下に記す.

 まず,サークルのメインの活動やアルバイトの勤務中だけでなく,活動時間外の飲み会や食事会などの機会があることで,上位者への親交行動が生起されやすくなることが考えられた.このことから,メインの活動や勤務以外の場において,上位者に対する態度や働きかけに影響する重要な要因が存在する可能性があることが示唆された.

 また,サークル活動において積極性が高いほど礼儀行動と親交行動を取りやすいという結果から,積極的な姿勢で活動や臨んでいるかどうかが,上位者に対する行動の一部に影響を与えていることが示された.アルバイトでは,積極性が高いほど礼儀行動と親交行動を取りやすいという傾向が見られなかったが,このようなサークルとアルバイトでの違いは,両者の活動や勤務に対する目的意識が関わっていることが考えられた.

 第三に,課外活動に複数所属し活動している経験が,集団での普段の行動や葛藤方略の選択と関連があるかということについてであるが,この点に関しては,複数所属しているかどうかというだけではなく,集団の特性や取り組みの姿勢,目的意識などが相互に影響し合うことで,行動や葛藤方略の選択に影響を与えていることが,本研究の結果から考えられた.

2.今後の課題

 本研究では,サークル集団の先輩とアルバイト集団の上司を,各集団における上位者と定義し,サークル集団における上位者とアルバイト集団における上位者とで比較検討を行った.しかし,厳密には先輩と上司との間で大幅な年齢差や親密度の差などがあると考えられる.よって,違う集団の上位者で比較するためには,それぞれの集団における上位者とので親密度や地位の高さなどを,より詳細に設定する必要があるだろう

 また,葛藤状況のシナリオについて,本研究では状況の統制を図るためにサークル集団とアルバイト集団で一つずつ設定をしたが,その内容の捉え方に個人差があったことは否定できない.そのために,解決に対する意欲などに個人差が生じ,それが葛藤方略スタイルの選択に対して影響を及ぼした可能性も考えられる.したがって,葛藤状況の深刻性や葛藤による利害関係などの条件について,さらなる検討の余地があるだろう.そして,葛藤方略スタイルを選択する際に,どのような目標を志向してその葛藤方略スタイルを選択したかも検討するべきであった.なぜなら,そうすることによって,その人にとって真に有効な方略スタイルを選択できているかということを推測できる可能性が考えられるからである.


3.引用文献

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