考察



本研究の目的は、コミュニケーション型知的リアリズム描画の発生要因は他者伝達意図なのか、他者伝達意図でないとすれば何が要因となっているのか、を明らかにすることであった。
本研究で明らかになったことの1つは、描画後他者に絵を見られる条件と、描画後誰にも絵を見られない条件を設定しても、描画反応に差がみられないという事実である。2つは、対象児に年中児・年長児という年齢差を設定しても、描画反応に差がみられないという事実である。
 
コミュニケーション型知的リアリズム描画と他者伝達意図の関係
本研究の仮説は、他者に見られる・見られない条件を設定しても、描画に差は見られない、ことであった。本研究において、他者に描画を見られる注視条件と、誰にも描画を見られない非注視条件を設定し描画反応の違いを検討したが、結果にあるように有意差はみられず、仮説は支持された。コミュニケーション型の描画反応を行った対象児は注視条件で10名、非注視条件で12名であり、他者に描画を見られる場合でも、見られない場合でも、コミュニケーション型の描画反応の発生頻度にほとんど差はみられなかった。コミュニケーション型の描画反応が、他者に描画を見られる注視条件において多くなり、誰にも描画を見られない非注視条件において少なくなった場合、他者伝達意図がコミュニケーション型の描画反応の発生要因と考えることができる。しかし、本研究において注視条件・非注視条件と条件を変えても、コミュニケーション型の描画反応の発生頻度に変化はみられなかった。よって、コミュニケーション型の描画反応の発生要因は、他者伝達意図でないことが示唆された。
 
年齢差の検討
先行研究(田口,2001)において、描画の発達的変化が明らかにされていたので、ここでも年齢差の検討をする。田口(2001)では、4歳児、5歳児、6歳児が対象児であった。そして4歳児では標準型の描画反応が、5歳児ではコミュニケーション型の描画反応が、6歳児では見え通りの視覚的リアリズム描画が、それぞれ多くなる傾向を示した。
本研究では年中児と年長児を対象とした。年齢差による描画反応の違いを検討したが、結果に見られるように年中児と年長児の間に有意差はみられなかった。よって本研究では、年齢差による発達的変化は現れず、先行研究と一致しない結果となった。
この一致しない理由については以下の2点が考えられる。1つは、田口(2001)において対象児は4歳児、5歳児、6歳児であったが、本研究において対象児は年中児(平均年齢5歳2ヶ月)・年長児(平均年齢6歳2ヶ月)であったことである。対象児の年齢がそもそも一致していないので、発達的変化にも一致がみられなかったと考えられる。2つは、実験状況の違いである。田口(2001)では描画対象の知識量を操作していたのに対し、本研究では教示を操作した。また、田口(2001)では描画中に絵を見られていたのに対し、本研究では描画中は誰にも絵を見られていなかった。このような実験状況の違いが発達的変化の表出に影響を与えていたと考えられる。
 
コミュニケーション型知的リアリズム描画の発生要因
 本研究の目的は、コミュニケーション型の描画反応の発生要因は他者伝達意図なのか、他者伝達意図でないとすれば何が要因となっているのか、を明らかにすることであった。目的の前半部分、コミュニケーション型の描画反応の発生要因は他者伝達意図なのかという点については、上記の考察で述べたとおり、他者伝達意図の影響は確認されず、コミュニケーション型知的リアリズム描画の発生要因は他者伝達意図でないことが示唆された。では、コミュニケーション型知的リアリズム描画の発生要因が他者伝達意図でないとすれば何が要因となっているのであろうか。
 この要因を検討するためには、コミュニケーション型の描画反応に注目し、より詳細に分析していくことが必要だと考えられる。そこで本研究ではさらに、コミュニケーション型知的リアリズムの描画内容や、コミュニケーション型の描画反応を行った際の言語反応を検討することによって、コミュニケーション型の描画反応の実体を明らかにし、その発生要因を考えていくこととする。
 



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