考察2



 本研究の第2の目的は、コミュニケーション型知的リアリズム描画の分析を通して、その発生要因を明らかにすることであった。
 
他者注視がコミュニケーション型知的リアリズム描画に与える影響
 本研究で明らかになったことは、コミュニケーション型知的リアリズム描画、ここでいうところのアンパンマンの描画には2種類あり、他者に描画を見られる注視条件では、アンパンマンとコップを合わせた描画が多く現れるのに対し、他者に描画を見られない非注視条件では、アンパンマンのみの描画が多く現れる、という事実である。注視条件群では、ほとんどの対象児がアンパンマンとコップを組み合わせて描いていた。これは見え通りの描画とは異なるが、目の前にある描画対象の特徴を的確にとらえた描画だといえよう。一方非注視条件群では、アンパンマンのみ描く対象児と、アンパンマンとコップを合わせて描く対象児が同数現れた。注視条件群に比べ、非注視条件群の方が、アンパンマンのみを描く対象児の割合が高かった。これは底面にアンパンマンが付いているという対象固有の情報を表した描画ではあるが、目の前にあるコップの見えは描いていない。インパクトのあるアンパンマンの出現に気をとられ、比較的思いのままに描いたといえよう。
 さらに、コミュニケーション型の描画反応を示した対象児に、何を描いたのか尋ねたところ、注視条件群ではほとんどがコップと回答したのに対し、非注視条件群ではほとんどがアンパンマンと回答した。注視条件群では、アンパンマンとコップを合わせて描画する対象児が多く、なおかつアンパンマンとコップを描いていても、何を描いたかと問われると、アンパンマンではなく、コップを描いたと回答した。一方非注視条件群では、注視条件に比べてアンパンマンのみを描画する対象児が多く、なおかつ何を描いたか問われると、アンパンマンと回答する場合が多かった。
 また、コミュニケーション型の描画反応を示した対象児に、どうしてそれ(アンパンマン)を描いたのか尋ねたところ、結果にあるような回答が確認された。具体的に言うと、「コップの後ろにいたから」など、底面にアンパンマンがいたからその事実を描いた、という回答と、「アンパンマンのビデオ見たから」などという、理由説明になっていない回答と、おおまかに2種類の回答が得られた。この回答は条件間で明らかな差はなかった。しかし田口(2001)で示されているような「こんな顔(本研究ではアンパンマン)だったから」や、八木・中澤(1986)で示されているような「取っ手があること(本研究ではアンパンマンがいること)が分かるように」のような、他者伝達意図が確認される言語反応は存在しなかった。このことからも、コミュニケーション型の描画反応が伝達意図によって現れているわけではない、という当初の仮説が支持されたといえるであろう。
 
コミュニケーション型知的リアリズム描画と他者意識
 他者に見られること・見られないことで、標準型知的リアリズム・コミュニケーション型知的リアリズム・視覚的リアリズムという各描画反応の発生頻度に差はみられなかった。しかしコミュニケーション型の描画反応を詳細に見ていくと、他者に見られること・見られないことで、描画に差がみられた。他者に描画を見られる場合、コミュニケーション型は、アンパンマンとコップを合わせて描くという、描画対象固有の情報を丁寧に表す描画が多く現れた。一方、他者に描画を見られない場合、コミュニケーション型は、アンパンマンのみを描くという、比較的自由な描画が多く現れた。注視・非注視という各条件間では、描画後、描いた絵を他者に見られるか見られないかという点しか条件を変更しておらず、その他の要因はすべて同じ条件になるよう設定して実験を行った。ここから、やはり他者に見られること・見られないことが、コミュニケーション型の描画反応の表出に影響していると考えられる。では、他者に見られること・見られないことが、子どもの何に影響し、描画反応を変えているのであろうか。田口(2001)においては、子どもの伝えたいという伝達意図に影響し、描画反応を変えていると考えられていた。しかし、本研究において、伝達意図が影響しているわけではないことが示唆された。
では何が影響しているのか。それは、他者伝達意図ではなく、他者意識ではないだろうか。ここでいう他者意識とは、子どもが描画を他者に評価・確認されることをあらかじめ理解・予期していることと考える。注視条件においては、後から他者に描画を見られることが告げられている。その際子どもは、自分の描いた絵が他者によって見られるということは、同時にその絵について評価が下されるということを予期する。よってあらかじめそのことを理解したうえで、描画に取り掛かる。だからこそ、注視条件群でみられたコミュニケーション型知的リアリズム描画は、アンパンマンとコップを合わせて描くという、描画対象を忠実に再現した描画を行った、と考えられる。一方、非注視条件においては、描いた絵は誰にも見られないことが告げられている。その際子どもは、誰にも見られないということは、誰にも評価・確認されないと理解し、描画に取り掛かる。だからこそ、非注視条件群でみられたコミュニケーション型知的リアリズム描画は、アンパンマンのみを描くという、描画対象固有の情報は取り入れているが、思いのままの自由な描画を行った、と考えられる。以上より、コミュニケーション型の描画反応は、他者意識によってその出現が左右される描画反応であるといえそうである。つまり、誰かに伝えたいという伝達意図によってコミュニケーション型知的リアリズム描画が発生するのではなく、誰かに評価・確認されるという他者意識によってコミュニケーション型知的リアリズム描画が発生する、と考えられる。
 



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