総合考察



 本研究は、コミュニケーション型知的リアリズム描画の発生要因は他者伝達意図なのか、他者伝達意図でないとすれば何が要因となっているのか、を明らかにすることを目的として、実験調査を行った。その結果、コミュニケーション型知的リアリズム描画の発生要因は他者伝達意図でないことが示唆された。そしてその発生要因は評価や確認を予期する他者意識なのではないかと解釈した。
 コミュニケーション型の描画反応は、自己中心的な思考から、他者が自分をどのように認識・評価するのかを考えることができる段階へ至る、そのちょうど中間地点に位置する描画反応だと考えられる。標準型知的リアリズムの描画段階は、描画対象に意識が向かず、自分の内的モデルを中心として描く。自分の中にあるイメージに従って、それに没頭して絵を描く。そこには他者にどう見られるか、他者からその描画がどのような評価を受けるのか、というような考えには至らない。他者が描画を見ようが見まいがそんなことはお構いなしといったところであろう。それに対して視覚的リアリズムの描画段階は、見え通りに描く。見えにない余分なものは付け加えず、見えをきちんと再現しようとする。近くのものは大きくまばらに、遠くのものは小さく密に描く遠近画法を用いるなど、美術の授業で習うようなリアリティのある絵を描く。この視覚的リアリズム段階では、もちろん他者にどう見られるのかということが念頭にある。そして他者がどう見るかという基準の下で描画をする。見え通りに描くことが好まれ、逆に想像の世界に入ってでたらめに描くことはよくない、という固定観念がその背景に根付いているのであろう。その中間段階であるコミュニケーション型知的リアリズムの描画段階は、他者に見られることで、描画が評価・確認されることが理解できる、しかし見え通りに描くスキルはない、という非常に不安定な段階であるといえよう。だからこそ、他者に描画を見られない場面では標準型に近い、比較的思いのまま筆をすすめてしまう描画をし、他者に描画を見られる場面では視覚的リアリズムに近い、見えと対象固有の情報、その両方を取り入れた描画を行ったと考えられる。
 絵というものは、自発的にのびのびと、思いのまま描く方が、描画対象を示され、課題を呈示されて描くよりも、楽しい活動になるであろう。もちろん、課題を出され、見え通り近くのものは大きくまばらに、遠くのものは小さく密にと「肌理の勾配」をつけたり、距離によって対象の色や明るさを変えたりと、技巧をこらして完成させる絵にもなんともいえない楽しさがある。しかし、コミュニケーション型知的リアリズムの描画段階の幼児にとっては、見え通りに描けるように技術を教えたり、見え通りの描画を推奨するような働きかけよりも、思い通り自由に描画させることの方が重要だと思われる。この段階の幼児にとって、他者の評価は、その描画を揺るがす大きな要因となる。他者に描画を見られるだけでも、表出される描画に違いが現れた。よって描画を褒めたり叱咤するなどという言語での評価は、それ以上に幼児の描画に影響をもたらすであろう。だからこそ、幼児の描画に対する働きかけに気を配ることが大切であると考えられる。そしてそれは、描画活動だけでなく、あらゆる表現活動の基盤となるであろうと考えられる。
 



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